3 2025

アート鑑賞は心のサプリメント

|アートを楽しむ|

カバー特集

posted by 日経REVIVE

若月佑美さんの「美術館」GOOD LIFE
アート鑑賞は心のサプリメント
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2025年2月23日

時を超えてリアルに触れる
だから芸術は面白い

絵を描くのも、鑑賞するのも大好きだという若月佑美さんと、国立西洋美術館へお出かけ。
「時代を超えて描き手の思いに触れ、リアルを観ることができるから美術館が大好きなんです」
若月さんが考える、アート鑑賞の意義と魅力について聞きました。

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若月佑美

わかつき・ゆみ1994年、静岡県生まれの女優。2011年に乃木坂46の一期生として芸能活動を開始。18年に同グループ卒業後は女優に転身。ドラマや映画などで活躍。趣味の絵画では二科展に通算9回入選。22年には初の特選入賞を果たす。現在も精力的に制作活動を行う。

撮影/オノデラカズオ 取材・文/澤村 恵 ヘアメイク/日高 咲
スタイリング/大友洸介 アートディレクション/本多康規(Cumu)

世界が広がる
至福の空間

3月11日から始まる、米・サンディエゴ美術館と国立西洋美術館所蔵の厳選作品を独自のキュレーションで展示する「西洋絵画、どこから見るか?」展。開催に先駆けて一部の作品を鑑賞してきました。絵を見ながら若月さんとアートの関わりをひもといていくことに。

「小さな頃から母に連れられて美術館へはよく行っていました。初めて行ったのは小学校低学年の頃だったかな。エジプト展だったんですけど、すごく楽しかった記憶があります。展示を見るのはもちろんですが、美術館の落ち着いた雰囲気の中に身を置くことが、いつしか癒やしに似た感覚になっていて。今でも美術館にはわりとよく行く方だと思います」

見るだけでなく、描くのも好きだという若月さん。

「私が絵を描くようになったきっかけは絵の先生をしていた祖父の影響です。祖父から直接習うことはなかったのですが、私が描いた絵を持って行くととても喜んでくれて。それがうれしくてまた描いて見せに行く。そんなことを繰り返していくうちに絵を描くことが自然と好きになっていきました。高校へと進学するときに祖父から油絵セット一式をプレゼントしてもらい油絵の世界へと足を踏み入れたのですが、せっかちで絵の具が乾くのを待ちきれず、つきつめることはできませんでした」

一時は美大進学も考えた若月さんですが、芸能の道へ進むことを決意。

「本格的に絵を学ぶことからは離れてしまいましたが、絵を描くことはやっぱり好きで、芸能界に入ってからも描き続けています。ただ、好きだけで描き続けるのもなという思いもあって。誰かに見てもらえる機会があるならと父の勧めもあって二科展に出すようになりました」

絵を描くときにはどんなふうにアイデアが湧いてくるんですか?

「私にとって絵を描くことは、感情を吐き出すことに近くて。テーマは疑問から生まれることが多いです。この疑問を持つことや、疑問を探すことを美術館へ行くことの目的にするのがおすすめです。アートをもっと身近に感じられるし、面白いですよ。それに疑問を持つことは思考の幅が広がるきっかけにもなります。つまり世界がどんどん広がっていくんです!」

描き手の思いを想像しながら見るのが好き。
時空を超えた空想旅行に近いかも。


「絵は目で見て、心で感じるものだと思います。説明書きや音声ガイドはあれど、その解釈は受け手に委ねられ、自由なのです。こういう時間って、とても豊かだなと感じます」


ベルナルド・ベロット《ヴェネツィア、サン・マルコ湾から望むモーロ岸壁》1740年頃、油彩/カンヴァス、サンディエゴ美術館 ©San Diego Museum of Art
同時期に描かれた風景画
リアルと空想の対比が面白い

ともに1700年代に描かれた風景画です。一つは現実のヴェネツィア、一つは空想のローマ。本展覧会ではリアルとファンタジーを同空間で行き来できるのも魅力。「正確にリアルに描くことが全てじゃない。空想のローマは小説のようで物語が感じられて面白いです」

  • 「最近描く絵のコンセプトはつながり。グッズや洋服などに描き、ファンの方と絵を介してつながるイメージです。一方通行じゃない気持ちのキャッチボールができればと思っています」

リアルが持つ力は唯一無二
新たな感性の扉を開きたい

今回の展覧会は同じ時代に活躍した画家であったり、同時期に描かれた風景画を対比させたり〝見比べる〞面白さも特徴です。国立西洋美術館主任研究員の川瀬佑介さんの説明を聞きながらじっくり絵を鑑賞する若月さん。

「自画像(表紙)の女性の絵はポスターにもなっていましたけど、写真で見るのと実物とでは全然違いますね。潤みつつも力強さを感じさせるまなざしとか感じ方がまるで変わってくる。スマホも便利でいいんですけどね(笑)。でもやっぱりリアルが持つ力は計り知れないですね。実際に見ないと分からない感覚ってあると思うし、それを感じられることは、今の時代逆に貴重な気がします」

アートファンであると同時に、アーティストでもある若月さん。挑戦したいことであふれています。

「二科展に出品した作品をはじめ、今まで描いてきた絵はいうなれば私の履歴でもあります。それらを並べて見ていただける機会をつくれたらと思っています。それこそ絵やアートは心で感じるもの。私の作品を通じて多くの方々と気持ちでつながることができたらこんなにうれしいことはありません。また、絵を描くことが好きという思いや私の持つ感性が芸能の世界のいろんなところに関わっているし、生かせるなと感じているので、自分のアイデアや創造力をこれからはプロデュースという形で発信していきたいです」


スペインの国民的画家
ソローリャの絵を見比べる

スペインを代表する国民的画家、ホアキン・ソローリャが同時期に描いた3点を並べる展示も。サンディエゴ美術館の所蔵品第一号でもあるソローリャの作品が見られる貴重な機会でもあります。「色使いや光の表し方がとてもやさしくて温かい気持ちになります」


  • ホアキン・ソローリャ《ラ・グランハのマリア》1907年、油彩/カンヴァス、サンディエゴ美術館 ©San Diego Museum of Art

What's GOOD LIFE for you?
夕方に幸せを
実感できること

  • 「自然が生み出す美しい夕空の色。いろんな家から夕飯のいい匂いがしてくるなど、夕方には幸せがいっぱい詰まっているなと感じていて。今日もいい夕方だなと感じられる毎日を紡いでいきたいです」

  • 西洋絵画、
    どこから見るか?

    ―ルネサンスから印象派まで
    サンディエゴ美術館
    vs国立西洋美術館

    アート初心者から上級者まで
    西洋美術を堪能できる

    東京都台東区上野公園7-7
    TEL 050-5541-8600(ハローダイヤル)
    営業時間:9時30分~17時30分(金曜、土曜は20時まで)入館は閉館30分前まで
    休館日:月曜、5月7日(水)(ただし3月24日(月)、5月5日(月・祝)、5月6日(火・休)は開館)
    当日券:一般2300円(税込)、大学生1400円(税込)、高校生1000円(税込)


  • マリー=ガブリエル・カぺ《自画像》1783年頃、
    油彩/カンヴァス、国立西洋美術館


日本初公開の49作品を含むサンディエゴ美術館と国立西洋美術館の所蔵品計88点を独自のキュレーションで展示。閉幕後の6月25日から一部構成を変えて京都市京セラ美術館に巡回します。

DATE 3月11日(火)~ 6月8日(日)※前売券の販売は3月10日(月)まで

PLACE 国立西洋美術館

WEB 展覧会の詳細はこちら


  • ヒルマ・アフ・クリント《10の最大物,グループIV,No. 3,青年期》1907年 ヒルマ・アフ・クリント財団 
    By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
  • ヒルマ・アフ・
    クリント展

    抽象画の先駆者のアジア初!
    大回顧展

    東京都千代田区北の丸公園3-1
    TEL 050-5541-8600(ハローダイヤル)
    営業時間:10時~17時(金曜、土曜は20時まで)入館は閉館30分前まで
    休館日:月曜(ただし3月31日(月)、5月5日(月・祝)は開館)、5月7日(水)
    当日券:一般2300円(税込)、大学生1200円(税込)、高校生700円(税込)


存命中も死後も長らくほぼ展示されることのなかった作品のうち、およそ140点が一堂に会する展覧会。すべて日本初公開!絵画他、スケッチなどの資料も展示。

DATE 3月4日(火)~ 6月15日(日)※前売券の販売は3月3日(月)まで

PLACE 東京国立近代美術館

WEB 展覧会の詳細はこちら

この記事は、2025年2月23日発行の日経REVIVE3月号に掲載された内容です。

取材裏話

3月号「美術館」若月佑美さん

ロケは閉館後に行われました。ミュージアムショップではその日の売り上げの集計、また警備スタッフのミーティングがグループごとに行われていて、舞台裏を見る良い機会でした。「西洋絵画、どこから見るか?」展では、同じ時代に活躍した画家の絵画や同じ時期に描かれた風景画を鑑賞できます。学芸員さんは「共通項のある作品を展示することで友達として会話させる」とおっしゃっていました。誰もいなくなった部屋で絵画同士が楽し気に話している姿、想像すると楽しいと思いませんか?