心と体に ホッと優しい
|癒やしの和スイーツ|
カバー特集
posted by 日経REVIVE
松浦弥太郎さんの「和スイーツ」GOOD LIFE
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2025年3月30日

ヘルシーで心の癒やしにも
世界も注目! 和スイーツの魅力
映えるパフェやケーキの洋菓子もいいけれど、日本人に昔から親しみのあるあんこや寒天を使った和スイーツを日本茶と一緒にいただくのも一興です。
無類の甘いもの好きで知られるエッセイストの松浦弥太郎さんと甘味処で待ち合わせ。
和スイーツが持つ深い魅力を伺いました。
NAVIGATOR
松浦弥太郎
まつうら・やたろう東京都生まれのエッセイスト。18歳で渡米した先で書店文化に魅了され、帰国を経て2002年に中目黒にセレクト書店「COW BOOKS」を開業。05年から9年間、雑誌「暮しの手帖」の編集長を務める。14年以降はIT業界に参入し、様々なコンテンツやプロダクトを手がけるとともに、精力的に執筆活動を続ける。「ご機嫌な習慣」(中公文庫)他、著書多数。
撮影/七咲友梨 取材・文/澤村 恵 アートディレクション/本多康規(Cumu)
甘味って現代社会に必要な
整いなんだと思います
東京・人形町にある老舗甘味処、初音は、海外からの観光客をはじめ、多くのお客さまで日々にぎわっています。松浦さんと訪れたこの日も、甘味を求めるお客さまで店内はいっぱい。
「あんこや抹茶って外国でものすごい人気ですよね。日本への旅行者が増えているのもあって老舗の甘味処にお客さんが集まる。それを見て我々も和スイーツを再認識している。それが最近の和スイーツブームのきっかけなのかなと。あとは、ある意味今の時代を表しているんだろうけど、今ってものすごいストレスフルな時代でしょう?甘いものを食べているときって嫌なことを忘れられたり、ちょっと一息つけて休憩できたり、ぼんやりできるきっかけになったりするじゃないですか。
だからね、甘味って現代社会を生きる人にとって〝整いの一種〞になるんじゃないかと思うんです」
和スイーツブームをこんなふうに見ている松浦さん。自身にとっては幼い頃から身近にあったものだといいます。
「祖母がお茶をたしなんでいたというのもあって、お茶の日の朝に和菓子を買いに行くというのが習慣で、それによく付いて行っていたのを覚えています。お茶菓子は特別ですけど、僕の普段のおやつって洋菓子じゃなくて炊いたあんこを挟んだどら焼きとか、寒天だったり、家で手作りしたものだったんですよね。日常的に和スイーツがあったので、特別なものではないんです。DNAレベルとまでは言わないけど、体に蓄積されているんです、和スイーツの魅力とおいしさが」
具体的に和スイーツの魅力ってどんなところにありますか?
「職人さんの丁寧な手仕事を味わえるのも一つ。基本的に油を使っていないから体が重くならないし、甘いけれど、甜菜糖や黒糖を使っているからヘルシー。食べても疲れないのがいいですよね。それと、甘味処で食べるというのも大きな魅力。日本人が古くから続けている憩いの習慣。すてきな文化だなと改めて思います。子どもから高齢者まで、男女分け隔てなく居心地よく休める。1人でも家族とでも友人とでも気軽に行ける。最高ですよね」
甘味処には1人で行きます。
あんみつをいただきながら
一息つく。思考が整う感覚です
「僕、毎日おやつを食べますが、和スイーツはシンプルにほっと一息つける癒やしといたわり効果があります。また、甘味処は音楽もかかっていないから落ち着いてゆったり過ごせるのもいいところ」
男1人、甘味処デビュー
新たな価値観を知る勧め
甘味処に男1人で行くことにハードルを感じる方もいるかもしれません。
「確かにね、ハードルといえばハードルかもしれません。人によってはカフェのほうがコスパもタイパもいいと感じる方もいると思います。入りづらいのも分かります。だけど、カフェとは違ったゆったりとしておだやかな時間の流れ方や、空間の違いを肌で感じて自分にとっての良しあしを確かめるのもいいんじゃないかと。自分の知らない価値観を知るという働きかけが必要だと思うんですよね。そうしないと、いつまでたっても自分が変わらないですから。だから、社会勉強のつもりで甘味処に入ってみるというのもいいんじゃないでしょうか。それに、初音さんのようなクラシカルで昔ながらのお店ってだんだんと少なくなってきているんですよ。日本の素晴らしい文化を残す意味でも、甘味処に出かけましょうよ。人形町は、街全体に古き良き日本の風情が残っていて、甘味処をはじめ、人形焼き屋さんやたい焼き屋さん、どら焼き屋さんなどお店もいっぱい残っています。お散歩するにも面白い街ですよ。ちょうど今の時期は桜の見頃。花見ついでに甘味処で小休憩なんておすすめです。心も体も整うんじゃないでしょうか」
新シニア世代でもある松浦さんに、これからの生き方を聞きました。
「それはもう雨が降ろうが、やりが降ろうが1日を喜ぶに尽きます。難しいけれど、そんな1日が積み重なっていくことこそが人生なのだと思います」
「油を使わず、甜菜糖や黒糖などで甘みを加えているからとにかくヘルシー。寒天はミネラル豊富な食物繊維で体にも良く、なおかつ腹持ちがいいのもいい。自宅でもしょっちゅう作って食べています」
「子どもの頃から人形町にお使いに来たら初音さんに立ち寄ってあんみつをいただいていました。小豆も寒天も職人さんのこだわりを感じるおいしさ。何をいただいてもおいしいけれど、僕はくずきりも好きです」と松浦さん。あんみつ750円(税込)
What's GOOD LIFE for you?
正直、親切、笑顔
- 「正直に生きる、親切になろう、笑顔を忘れない。この言葉は頭で考える、とか意識するものではなく、僕自身の隅々にまで行き渡っているもの。つまり僕の生き方そのものなのです」
この記事は、2025年3月30日発行の日経REVIVE4月号に掲載された内容です。
取材裏話
4月号「和スイーツ」松浦弥太郎さん
甘味処。そういえば時間が空いた時に過ごす選択肢としては出てきません。圧倒的に店の数が喫茶、カフェに比べ少なく、さらに今回ロケでお邪魔した初音さんのような伝統を残したお店はもはや文化財です。パティシエが女子小学生のなりたい職業の地位を固め、かたや和菓子職人はどうなのか、と少々心配ではあります。年齢を重ねるにつれ和菓子を好む傾向にあるとのことなので、そこは私たちで盛り上げていきましょう。