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片桐仁さんの「アート」GOOD LIFE
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2024年2月25日
美術館は人生の延長線上!?
自分を見つめ直せる場所
学生時代に行ったけれどよく分からないし小難しい。
美術館やアートに関してこんなふうに感じていませんか。
「美術館って自分を見つめ直せる場所でもあるんです」
そう教えてくれた片桐仁さんと東京国立近代美術館へ出かけました。圧巻の展示を鑑賞しながら新シニア世代におすすめの楽しみ方を伺いました。
NAVIGATOR
片桐仁
かたぎり・じん1973年埼玉県生まれの俳優/粘土造形作家。多摩美術大学在学中にラーメンズを結成し芸能活動をスタート。2000年ごろから舞台やテレビドラマで俳優として活躍。粘土造形作家としても活動中で5月には香川県でイラストレーターのデハラユキノリと2人展を開催予定。現在TOKYO MXの「はじめての美術館」に出演中。
撮影/七咲友梨 編集・文/澤村 恵 ヘアメーク/邦木奈帆 スタイリング/片岡麻弥子 アートディレクション/本多康規(Cumu)
東京国立近代美術館って
やっぱり面白い!
ライブや観劇と同じ鑑賞でありながら、それらと比べると美術館へ行くことはハードルが高いと感じる人も。
「美術館、面白いし楽しい場所なんですけどね!アートを難しく捉えすぎなのかもしれません。覚えなきゃ、何かを得なくちゃって。そうすると途端にアートとの距離ができて遠い存在になってしまいます。でも、歴史をたどると考えたらどうですか?美術館はテーマを立てて展示していますが、美術史の流れに沿って系統立てて見ることもできるので、この時代にこんな作品を作っていたのか、とかその時代の生きざまや暮らしが垣間見えます。だから僕、美術館って自分を見つめ直す場でもあるなと思っています。人生の延長線上に美術館があって、作品を見て感じることで新たな自分を発見したり顧みたりできるんです」
美術館を楽しく巡るコツってありますか。
「自分ならではの出合いと発見を楽しんでほしいです。作品には説明が書かれたキャプションがついていて音声ガイドもありますよね。どう見ていいか分からないからよりどころにはなるんだけど、見た気になって、頭でっかちに考えようとしちゃうんですよね、皆真面目だから。でも最初は自分の感覚で見てみましょう。感じることをもっと気軽に楽しんでほしいです。確かに抽象画や現代美術になると理解できない!というものもあると思います。ただ、この理解しなくてはという呪縛から自分を解放してください。アートの良さは全部が全部を理解しなくていい、自由なところにあるのだから」
今までたくさんの美術館を訪れてきた片桐さん。東京国立近代美術館の魅力とは何でしょうか。
「アートの正解が見られるというのがひとつ。もうひとつは距離感かな。近代美術って長い歴史の中でもここ100年ぐらいのものなので、作者や作品の情報がしっかり残っているんですよね。時代背景も想像ができるっていうのかな。作品やアーティストたちとの近さがちょうどいいんです。そんな時代の作品たちが持つエネルギーってものすごいので、それらを感じられるのも近代美術館ならでは。どうですか、美術館行ってみようかなって気持ちになってくれたらいいなあ」
原田直次郎《騎龍観音》1890年、寄託作品(護国寺蔵)、重要文化財
出光真子《主婦の一日》1977年- 展示には映像作品も。ブラウン管テレビ自体がとても希少だとか。「作品の中にも登場しますが、ブラウン管にしか出せない風合いを大事にしたいです」と学芸員の横山さん。
作者、作品、キュレーター
美術館ってエネルギーの宝庫!
目で見て心で感じよう
「全部理解しようとしなくてもいいというのがアートの良さだと思うんです。ついつい何かを得なければ、と力が入っちゃうと思うんですが、まずは自分の感覚を大事にしたらいいと思います」
- ジェルメーヌ・リシエ《蟻》1953年
- フランスの女性彫刻家、ジェルメーヌ・リシエ。蟻と人間のハイブリッドだという彫刻作品をこのたび初公開。「質感とかすごいなあ。どう作ってるの?ってこの距離で観察できるのはやっぱり美術館ならでは」
「小特集:芹沢銈介と、新しい日々」展示風景
中身は中学生のまま!?
続く自意識とのせめぎ合い
俳優、芸人、造形作家として25年を迎えた片桐さん。
「昔は、結局おまえは何なの?ってよく言われて。芸人ですって言うのもおこがましいし、俳優って何だろうというふうに全てに腰が引けている状態で、年だけとっちゃった感じなんです。自分でもよくやってこられたなと思います。演技の仕事はいまだに緊張するし、うまくできないし、大変なこともいっぱいあるし、何よりこっぱずかしい!創作もそうで、これ何の意味があるんだろう?どう思われるかな、とか。自意識とのせめぎ合いなんですよね。50歳になっても中身は中学生のまま(笑)。基本的に受け身でネガティブな性格なので。でも最近、そうも言ってられないなって思うようになりました。と言いつつも気持ちは行ったり来たりなんですけどね。でも人生あっという間ですからね。30代より40代の方が楽しかったし、とにかく過ぎるのが早かったので50代も想像以上に早いんだろうなと」
現在50歳の片桐さん。これから挑戦したいことはありますか。
「大勢の人と粘土で何か作れたらと考えています。今まで創作は自分一人でやりたいタイプだと思っていたんですが、以前ワークショップで粘土を1000個使った作品作りをした時に、楽しかったんですよね。絵を描くのはちょっと大変だけど、粘土なら老若男女いけるなって。触感もいいし、感覚的にできるので、アイデアも生まれやすい。大型作品だと自分のアンコントロールな部分も出てくるんだけど、それもなんかいいかもって思えたんです。みんなで創作、かなえたいです!」
「音声ガイドの力ってすごいんです。よりどころではあるんだけど、見た気になっちゃうんですよね。だから最初は自分の感性だけで見るようにして音声ガイドは2回目というルールにしています」
What's GOOD LIFE for you?
本番直前の緊張感
- 「舞台やドラマ撮影の本番前っていまだに緊張するんです。うまくできるかな、大丈夫かなって。毎回すごい嫌なんだけど、一方でこの緊張感に “生”を感じている自分もいるんです。感情の緩急バランスなのかな」
RECOMMENDED EXHIBITION
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TRIO パリ・東京・大阪
モダンアート・コレクション
東京国立近代美術館
見て、比べて、話したくなるユニークな展覧会
独自の美術文化を育んできたパリ市立近代美術館、東京国立近代美術館、大阪中之島美術館の3館が所蔵するコレクションが一堂に会するTRIO展。それぞれのコレクションから共通点のある作品で“トリオを組み”構成するというこれまでにないユニークな展覧会です。マティス、バスキア、草間彌生など近現代美術をけん引する110人の作家による34組のトリオをその目で、その心で体感ください。
この記事は、2024年2月25日発行の日経REVIVE3月号に掲載された内容です。
取材裏話
2月号「アート」片桐仁さん
この日片桐さんが斜め掛けしているモアイ像のスマホケースは、なんと手作り。独特の味わいの色味、表情の一品です。ちょうど同じ週にテレビ番組の収録で「セグウェイに乗った仁王像」の作者と話す機会があったとか。作者は彫刻家の三好桃花さん。取り合わせが絶妙です。東京国立近代美術館の向かいには皇居東御苑があり、敷地内の散策では季節の植物、野鳥が楽しめます。こちらの散策も合わせ美術館に行く1日を楽しんでみましょう。
記事内で紹介している場所