9 2023

実は身近にあふれている
現代アートの出発点

|キュビスム|

カバー特集

posted by 日経REVIVE

篠原ともえさんの「アート」GOOD LIFE
実は身近にあふれている現代アートの出発点
|キュビスム|

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2023年8月27日

西洋美術の一大ムーブメント
キュビスムを知る

20世紀初頭、西洋美術に新たな視点を増やし、描く側にも見る側にも衝撃と発見を与えた美術運動の一つである「キュビスム」。そのキュビスムに影響を受けた世界的建築家、ル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館に篠原ともえさんと訪問。
田中正之館長にキュビスムについて伺いました。

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篠原ともえ

しのはら・ともえ1979年東京都生まれのデザイナー/アーティスト。1995年に歌手デビューしその後俳優、ナレーター業などでも活躍。現在は衣装デザイナーとしてアーティストの舞台衣装や企業制服なども手がける。2020年にアートディレクターの池澤樹氏とクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立。衣装だけにとどまらず、様々なクリエーションに携わっている。

撮影/オノデラカズオ 編集・文/澤村 恵 ヘア&メーク/ナリタミサト アートディレクション/本多康規(Cumu)

現代デザイン、アートの始まり
キュビスム探訪

田中館長(以下、敬称略) ようこそ、いらっしゃいました。早速ですが、篠原さんはキュビスムをご存じですか?
篠原さん(以下、敬称略) 言葉は知っていますが、それがなんなのかを説明するのは難しいです。
田中 そうですよね。ではパブロ・ピカソはどうでしょう?
篠原 もちろん知っています!
田中 キュビスムはピカソが創った西洋美術のムーブメントなのです。誰もが知る世界的な画家になれたのはキュビスムを始めたからといわれています。
篠原 ピカソって一風変わった作品のイメージですが、もともと写実描写のスキルが高い。バルセロナの美術館でピカソが10代の頃に描いた絵を見たことがあるのですが、衝撃でした。その後作風は変化していきますが、いつもチャレンジをしていると感じます。
田中 そう。ピカソを知る上で大切なキーワードがチャレンジと発見です。
篠原 キュビスムを発見した…?
田中 ピカソは好奇心が強く、絵を描くことに貪欲でした。そこで出合ったのがポール・セザンヌとアフリカやオセアニアの造形物でした。
篠原 画家のセザンヌとアフリカなどの造形物って結びつかないのですが、どういうことなんでしょう?
田中 セザンヌの絵って子どもが描いたような、言ってしまえば下手とも捉えられるところがあります。ピカソはその奇妙な描き方に美術の未来を見いだしたんです。それまで絵画は写実的に描くものとされていました。当時画家になるには正確なパースが引けて遠近法などを用いた再現描写ができることが大前提。ピカソはセザンヌの絵を見て勇気をもらったんです。再現描写的に描かなくてもいい。絵の中の世界をもっと自律的に捉えていいのだと。
篠原 発見したんですね。そして自由に独立的に描くようになったのですね。
田中 どう変わっていったかというと、1枚の絵に複数の視点を入れたのです。例えばグラスを横から見ると台形に楕円形の飲み口を描くと思うのですが、ピカソはそれでは正しい形や大きさが伝えられないと考え、グラスを横から見た台形に真上から見た円の飲み口を描いたのです。
篠原 なるほど! だから違和感というか絵が立体的なのですね。
田中 その後は分析的キュビスムと呼ばれ、展開図のような作品が出てきたりと変化し発展していきます。コラージュもピカソが始めたんですよ。
篠原 すごい! ピカソのキュビスム大発見は美術の可能性を広げ、しかもデザインの始まりでもあるんですね!
田中 全ての出発点といえるんです。

時代を揺るがす大変革
キュビスムから今を生きる私も
たくさんの影響を受けています

  • 「絵の中に複数の視点を持つことは時間の表現にもつながる。それは動画の始まりでもあるんですね。デザイン、エンタメまで全ての出発点って本当にすごい。ピカソは大きな扉を開いたんですね」

  • 「アート、デザイン、エンタメ全ての始まりだということは、すでに私の人生にもキュビスムがあり、影響を受けているんだなあと感激です。皆さんの人生にもキュビスムがあるんじゃないでしょうか」


常設展のグッズやカタログを購入できるミュージアムショップも充実。「観覧の記念にお買い物するのもいいですね」

キュビスムが開いた
多方面の可能性

篠原 近代建築の父と呼ばれ、国立西洋美術館を設計したル・コルビュジエももともと画家でしたが、キュビスムの影響は受けているのでしょうか?
田中 キュビスムがなければ今のル・コルビュジエにはなっていなかったと思います。ル・コルビュジエはピカソの影響を受けながら、それを乗り越えようとピュリスム(純粋主義)を提唱しました。描かれるもの全ての形がすっきりと明瞭で明快なものになっているんです。
篠原 再現描写じゃないけれど、製図や設計図のように形が再現できるような絵を描いていたんですね。絵を描きながらももう建築やデザインが頭の中にあったわけですね。
田中 キュビスムが全ての出発点と言われるのが納得できるでしょう?
篠原 はい。それにきょうお話を伺っていて自分の人生の中にもキュビスムがいたんだということに気づけて感動しています。多くの画家たちの心を動かしたキュビスムの作品たちをル・コルビュジエ建築の空間で鑑賞できるなんて、とてもぜいたくで楽しみです。
田中 ここならではの唯一無二の展覧会です。ご期待ください。

 

アルベール・グレーズ《収穫物の脱穀》
1912年/国立西洋美術館

アルベール・グレーズや、ロベール・ドローネーなどはキュビスムを古典主義の20世紀版と捉え、彼らなりのキュビスムを展開。「麦の刈り入れという伝統的な主題が特徴的。伝統を自分たちなりにアップデートするとこうだ! という思いが表れている」と田中館長。

 

ロベール・ドローネー《パリ市》1910-1912年/ポンピドゥーセンター
アルベール・グレーズと同時期に活躍したロベール・ドローネーの集大成といえる作品。「伝統的な女性の像と色鮮やかなパリの街並みの融合が実に印象的。モザイクのようにも見えますね」

ロベール・ドロネー《パリ市》1910-1912年
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne – Centre de création industrielle (Achat de l’Etat, 1936. Attribution, 1937)
© Centre Pompidou, MNAM-CCI/Georges Meguerditchian/Dist. RMN-GP

What's GOOD LIFE for you?
創り続ける

  • 「やっぱりものづくりが好きなんです。きょう伺ったキュビスムのお話にも通じますが、新しいものに挑戦したり、素晴らしいアーティストに刺激を受けたりしながら成長する自分を楽しみたいです」

RECOMMENDED EXHIBITION

  • パリ ポンピドゥーセンター
    キュビスム展美の革命
    国立西洋美術館

    キュビスムの始まりから終わりまでを一挙総覧

世界でも屈指の近現代美術コレクションを誇る、パリのポンピドゥーセンターから、20世紀初頭に創出されたキュビスム作品が多数日本へ。キュビスムを生み出したパブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラックをはじめ、彼らに影響を受けた多くの芸術家たちの絵画、彫刻、素描、版画、映像など約140点が並びます。日本でキュビスムを取り上げる展覧会はおよそ50年ぶりの開催です。
西洋美術史に残るキュビスムレボリューションをぜひお楽しみください。
公式サイトはこちら

アルベール・グレーズ《収穫物の脱穀》1912年/国立西洋美術館


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この記事は、2023年8月27日発行の日経REVIVE9月号に掲載された内容です。