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時を経てなお趣深い レトロな港町

|横浜|

カバー特集

posted by 日経REVIVE

田中道子さんの「 建築散歩 」GOOD LIFE
時を経てなお趣深い レトロな港町
|横浜|

posted by 日経REVIVE

2024年12月08日

その時代の思いに触れられる
魅力奥深い、建築の世界

合格率はおよそ10%ともいわれる狭き門の一級建築士試験に合格した女優の田中道子さんと初冬の横浜で名建築を巡りました。建築士試験を受けようと思ったきっかけや、建築の魅力や楽しみ方についてたっぷりとお話を伺いました。

NAVIGATOR

田中道子

たなか・みちこ1989年、静岡県生まれの女優。ミス・ワールド2013で日本代表に選出される。2016年に女優として初めてテレビドラマに出演。絵画の腕前がプロ級で、2019年には二科展の絵画部門で初出展・初入選を果たす。2022年、長年の夢だった一級建築士試験に合格。プライベートでは、2024年にサッカー元日本代表の川又堅碁氏と結婚。

撮影/オノデラカズオ 取材・文/澤村 恵 ヘアメイク/山田典良 スタイリング/青柳裕美
アートディレクション/本多康規(Cumu)

歴史と誇りに触れる、
ロマンチックなひととき

1910年代から1930年代にかけて建てられた横浜の公的建造物で、通称キング、クイーン、ジャックと呼ばれる横浜三塔を巡るべく、田中さんと日本大通りで待ち合わせ。最初に港町、横浜の印象を聞きました。

「横浜は仕事で来ることが多いのですが、この辺りはいつ来ても本当にきれいだなと感動します。私が建築に興味を持つきっかけとなった地元の雰囲気と重なる部分もあって好きです」

田中さんといえば、難関の一級建築士試験に一発合格したことが話題となりましたが、そもそもなぜ建築士を目指そうと思ったのでしょうか。

「きっかけは小学2年生の時。引っ越した先が都市開発で整備された新興住宅街だったんですが、すごくアーティスティックで。交差点ごとにモニュメントがあって、道路も石畳でできているような…。私は幼いながらに、なんてすてきな街なのだろうと感激したんです。建築に興味を最初に抱いたのはこの頃でした」

高校生になると、仮想現実の中の街づくりデザインに興味が出てきた田中さん。大学は空間造形学科に進学したものの、周囲は建築士を目指す人ばかり。温度差を感じていた時に起きたのが東日本大震災でした。

「被災地にすぐに仮設住宅を建てるなどの活動を目の当たりにして、もしまた日本が危機に直面した時に、私が力になれるのは、今勉強している建築の分野なのかもと思ったんです」

建築士になりたい思いはありながらも、芸能界の仕事を始めた田中さん。

「日々せわしなく芸能の仕事をさせていただく中でも、いつかは建築の仕事に就きたいという思いがありました。自分の夢に蓋をしていたんですよね。そんな時にコロナ禍で自宅待機を経験。そこで東日本大震災の時に感じた思いがフラッシュバックしたんです。私が人様の役に立てるのは建築の仕事だって強く思ったのに!と」

そこから怒涛(どとう)の勉強の日々がスタート。女優業との二刀流は想像以上のハードさだったと思います。

「もう本当に毎日溺れながら泳いでいるような状態で。ただ、大変な時って大きく変わる時でもあるので楽しみでもあって。障壁を乗り越えた時に一皮むける気がするので、新しい自分になることをご褒美に頑張っていました。私、負けず嫌いなんだと思います」

since 1917横浜市 開港記念会館(通称:ジャック)
神奈川県横浜市中区本町1-6横浜市民に愛され続ける
タウンホール

横浜開港50周年を記念し、1917年(大正6年)に開館。横浜市民からの寄付により建設された記念建造物。建築様式は、辰野式フリークラシックが採用された。市民に愛され続ける文化施設となり、現在も現役の公会堂として存在する。


「ゲームに興味があったので、最初は仮想現実の中の街づくり、いわばファンタジーの中での建築や設計に憧れを抱いていました。自分で自由につくれるというのも魅力的でしたね」

建物は人が使ってなんぼ
長くいたいと思える場所を

血のにじむような勉強の日々を重ねて取得した一級建築士の資格。現在は、芸能界の仕事と並行して2年間の実務実習を行っているそう。そんな田中さんに建築士としての展望を聞きました。

「建築士は人の命を預かる仕事。そして人から望まれない限り出番のない仕事ですが、いつか両親の家をリフォーム設計したいなと妄想中。また、チャンスがあれば都市開発などにも参加してみたいです。これもまた夢ですが、いつか教育施設をつくってみたいんです。子どもたちの感受性が育つような。そういう場所で学んだ子どもたちはきっとその場所を誇りに思うと思うんですよね、私が生まれ育った街のように。そういう建物が一つでも増えればいいなと思いますし、その設計に自分が携わることができたら、こんなにもうれしいことはありません」

最後に、田中さんが考える建築の魅力って何でしょうか?

「なぜかホッとできるとか、長くいたいと思う場所ってあると思うんですが、それって設計した人にとって一番うれしいことだと思うんです。建物って人が使って生きるものだから、ただの場所として扱い消費するのではなく、そこに目的があったりお気に入りの空間があったり。人それぞれ心地よさは違いますが、好きな場所(建築)って必ず見つかると思うので、そういう場所を探す建築散歩は人生においてとても豊かなものだと思います」

建物にはその時代の
ロマンがふんだんに詰まっている

since 1928神奈川県庁 本庁舎(通称:キング)
神奈川県横浜市中区日本大通1重要文化財に指定された
和洋折衷のたたずまい

1928年(昭和3年)に4代目の県庁舎として誕生。幾何学模様の装飾が特徴のライト様式に、和風の屋根が合わさった、当時流行した帝冠様式を採用。平日は6階の歴史展示室と横浜の街並みを一望できる屋上展望台が見学できる。

「洋風建築、和風建築問わず古い建物が大好き」だという田中さん。「地震大国である日本で、100年以上もの間あり続けられる技術力にも感嘆します。県庁本庁舎に使用されている重厚な大理石も当時のロマンが感じられてうっとりです」


「私、歴史が大好きなんです。古い建築物を見るときは、建物自体の歴史と、時代背景を照らし合わせながらじっくり観察。当時の世相や人々の思いを想像しながら見るのが最高に楽しいんです!」

since 1934横浜税関 本関庁舎(通称:クイーン)
神奈川県横浜市中区海岸通1-1柔和な雰囲気が魅力
港町の歴史的シンボル

関東大震災の復興事業の一つとして1934年(昭和9年)に再建。様々な西欧建築様式が混在したエキゾチックなたたずまいが特徴。イスラム風の塔の高さは51メートルで当時の横浜で最も高い建物だった。横浜市認定歴史建造物に認定されている。

What's GOOD LIFE for you?
すべてを楽しむ

  • 「日々を楽しむためには心身ともに健やかでいないといけないと思うので、まずは自分を大切に。”自愛”の精神を持ちつつも、決して甘やかすことなく大変なことも含めて楽しみたい。そんな人生が理想です」

この記事は、2024年12月8日発行の日経REVIVE1月号に掲載された内容です。

取材裏話

1月号「建築散歩」田中道子さん

通称ジャック、クイーン、キングの最寄駅はみなとみらい線の日本大通駅下車。みなとみらい地区の高層ビルを背景に、ここだけ横浜開港時の空気を感じられます。トランプにたとえられたのは、開港当時、横浜に寄港する船員たちが名付けたとのこと。これらに加え、神奈川県立歴史博物館(当時の横浜正金銀行本店)をエースのドーム、と呼ぶこともあります。いつも変わらぬ存在で、ついつい行きそびれる感ありますが、今回のREVIVEをきっかけに冬の横浜で三塔を、また時間があれば山手に足を伸ばし洋館を巡り開国当時に思いをはせてみては?