6 2025

弾いてみたい曲は ありますか?

|もしもピアノが弾けたなら|

カバー特集

posted by 日経REVIVE

伊原剛志さんの「ピアノ」GOOD LIFE
弾いてみたい曲は ありますか?
|もしもピアノが弾けたなら|

posted by 日経REVIVE

2025年5月25日

心地よい音色と弾ける喜び
大人の日常を彩るピアノの世界

若い頃の憧れ。もしもピアノが弾けたなら…
と思い描いたことがある人も多いのでは?
そんな思いを演じることをきっかけに実現したのが俳優の伊原剛志さん。楽譜も読めず、ピアノに触れたこともなかったという伊原さんが魅了され続けているというピアノについて語ってくれました。

NAVIGATOR

伊原剛志

いはら・つよし1963年生まれ、大阪府出身。1983年の俳優デビュー以降ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍。7月17日から恵比寿・エコー劇場にて漫才ミュージカル「なにわシーサー ’s」、8月31日から世田谷パブリックシアターにて舞台「愛の乞食」に出演予定。主演映画「ら・かんぱねら」が全国順次公開中。

撮影/オノデラカズオ 編集・文/澤村 恵 ヘアメイク/山岸直樹 スタイリング/柴﨑 篤
アートディレクション/本多康規(Cumu)
衣装協力:Y’s for men/ワイズ プレスルーム( 03-5463-1540)

ピアノの音色に
魅了され続けています

19世紀を代表する作曲家であり、ピアノの魔術師の異名を持つフランツ・リスト。彼の代表曲でもあり、プロのピアニストもひるむといわれる難曲「ラ・カンパネラ」。この名曲に魅了され、7年かけて弾けるようになったとある中年男性の実話を「ら・かんぱねら」として映画化。モデルとなったノリ漁師の徳永義昭さんを演じたのが伊原剛志さんです。伊原さんも徳永さん同様に、楽譜は読めず、さらにはピアノに触ったことすらなかったといいます。

「この映画のオファーをいただいた時、弾いているふうで構わないと言われたんです。それで台本を読んでいたら、楽譜も読めない、全く弾けない僕と徳永さんって一緒だなと。この作品に出ることは、僕自身のドキュメンタリーでもあるなと思ったんです。僕がピアノに挑戦することで、絶対映画にもっと深みが出るだろうなと思いました。超絶技巧とかっていわれる難しい曲ですから、どこまでできるのかは全くの未知数でしたが、やってみたい!とピアノ指導の先生に教わることにしたんです。60歳で初めてピアノに触れに指が動かないし、左右違う動きでしょう? もう無理だーっ! なんて思うこともありました。だけど、一つ決めていたことがあったんです。下手くそでもなんでも、撮影までの間、休まずに弾き続けようと。でも、先生から腱けんしょう鞘炎になると長い期間弾けなくなっちゃうからそれだけは気をつけてと言われまして。腕に気を配りつつですが、1日6時間はピアノに向かっていました。地方の仕事がある際は折り畳みの電子ピアノを持ち込んでとにかくカンパネラ漬けの日々でした」

つらさや苦しさを感じながらも続けられたのは、ピアノが持つ唯一無二の魅力に魅了されたからだとか。

「僕ね、ピアノの音色が本当に好きで。かっこいいし癒やされますよね。和音っていうんですかね。ラ・カンパネラにもたくさん出てくるんですが、心地よさとかっこよさが共存した音色で。この心地よく、かっこいい音を聴いていたいのもあって練習を続けられたのかもしれません」

簡単じゃないから”もっともっと“と
ピアノを弾きたくなるんです


「楽器の中でもピアノってちょっと別格というか。昔から憧れ、みたいなものはあったかもしれません。バーとかでピアノをさらっと弾いている人とか、かっこいいなって思います」


撮影場所にあったピアノを実際に弾いてくれた伊原さん。「アクションの手順を覚えるように弾き方を覚えていました。だから楽譜を見た時は驚きました。何じゃこりゃって感じで(笑)。楽譜も読めず、大変さも知らないからできたのかなって思います」

年齢や型にはハマらない!
挑戦し続ける自分でいたい

猛練習を重ねて撮影までに144小節あるラ・カンパネラを全て暗記し、弾けるようになった伊原さん

「僕、アクション出身で動きを覚えるのが得意なのですが、ある時ピアノを弾く手の動きがアクションの足さばきに似ているなって気がついて。先生の褒め上手な指導のおかげもあって覚え切ることができました」

撮影を終えた今も、折に触れ、ピアノを弾いているという伊原さん。

「電子ピアノじゃ物足りなくなりまして、今はアップライトピアノを借りています。さすがに毎日…とはいきませんが、それでも週に何度か、ふとピアノに触れたくなる時があって。やっぱり音がたまらなく好きなんですよね。
そして弾いている時間、無になれるのもいい。実は今目標があって。ラ・カンパネラをもっと完璧に弾けるようになりたくて。なんだろう。簡単にできた! はい、次! って一筋縄でいかないところが面白いのかな。何だか人生にも通じるというか。挑戦できることが楽しくて喜びなのかもしれません。
僕の中で完璧なラ・カンパネラ。あと何年かかるか分からないけれど、じっくり向き合っていきたいです」

もしもピアノが弾けたなら…。想像を超える豊かな日々が訪れそうです。


「映画のモデルとなった徳永さんはフジコ・ヘミングさんのラ・カンパネラを聴いて自分も、と志したのですが、僕もフジコさんの演奏がとても好きで何百回と聴いてイメトレや指練に励みました」

INFORMATION

『ら・かんぱねら』

九州、佐賀の有明海でノリ漁師として生きてきた52歳の主人公が、ある日、フジコ・ヘミングが演奏する「ラ・カンパネラ」を聴いて自ら弾いてみたいと思い立つ。プロのピアニストも怯むほどの難曲に挑む男の本気の挑戦物語を伊原剛志、南果歩他、実力派俳優たちが紡ぐ。
公開予定は公式サイトをチェック。

What's GOOD LIFE for you?
チャレンジ

  • 「俳優という仕事を通じて、たくさんチャレンジさせてもらっています。そのチャレンジを通していろんな人と出会い協力し合い、支えてもらいながら前に進んでいく。そんな人生がとても豊かだなと感じています」

この記事は、2025年5月25日発行の日経REVIVE6月号に掲載された内容です。

取材裏話

6月号「ピアノ」伊原剛志さん

映画「ら・かんぱねら」を見てきました。当日の劇場は満員で立ち見が出るほどの人気。私も立ち見で2時間過ごしました。伊原さんの「ラ・カンパネラ」は通常、耳にするテンポに比べるとゆっくり目、144小節を10分程度の演奏で、弾き終わった後の解放されたようなほっとした表情が印象的でした。トリビアですが「ラ・カンパネラ」の意味は鐘。伊原さんの挑戦、次はどんなチャレンジが待っているのでしょうか?