4 2022

歴史的名画を鑑賞して 目と心の栄養補給

アート特集

カバー特集

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片岡鶴太郎さんと
感性と対話するアートの世界へ

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2022年3月27日

日経REVIVE 2022年4月号カバー アート特集 片岡鶴太郎さん1

アートは好きでも嫌いでもいい
まずは感じることが大切

役者としてのほか、絵や書など数々の作品を生み出す芸術家としての顔も持つ片岡鶴太郎さんと国立新美術館で開催中の「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」を鑑賞。名画を堪能しながら鶴太郎さんの絵との出合いや30年になる創作活動への思いを聞きました。

詩情豊かな絵が好きです

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片岡鶴太郎

かたおか・つるたろう1954年東京都生まれ。高校卒業後、声帯模写の片岡鶴八師匠に弟子入り。3年後に独り立ちし東宝名人会、浅草演芸場に出演するようになる。その後バラエティー番組出演をきっかけに芸人としての地位も確立。4月からのNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」では、主人公を見守る横浜市鶴見の沖縄県人会会長、平良三郎を演じる。

撮影/吉澤健太 編集・取材/澤村 恵 アートディレクション/本多康規(Cumu)

米ニューヨークのマンハッタンにある小さな建物で一般公開がスタートしたメトロポリタン美術館。2500点以上のコレクションを持つヨーロッパ絵画部門から、よりすぐりの65点の名画を集めた「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」が国立新美術館で開催されている。

「僕ね、メトロポリタン美術館には実はまだ行ったことがなくて。だからきょうはとても楽しみにしてきました。ワクワクするなあ」

ルネサンスから19世紀までの西洋絵画史を彩ってきた画家たちの作品をじっくり見て回る鶴太郎さん。

「画家はもともと貴族のお抱えであり、写真のない時代にいかに主人の絵を格好よくすてきに描くかが重要だったでしょう。画家本人の感じたことや思いには蓋をしてしまっている状態ですよね。その後時代が移り変わり、画が自由に好きな絵を描ける印象派の時代がやってくる。はやった画題や描き方がとても分かりやすく展示され巨匠と呼ばれる画家の作品もあり、とても見応えのある楽しい展覧会です」

日経REVIVE 2022年4月号カバー アート特集 片岡鶴太郎さん2
〈Ⅰ.信仰とルネサンス〉中世の絵画は神性を強調するため平面的で超然とした姿が描かれているが、ルネサンスになるとより人間らしく描かれ空間の奥行きも表現されるように。「この時代は卵やにかわで顔料を練ったテンペラという技法が主流。すぐに乾いちゃうから早く描かなきゃいけない。だから少し硬い印象を受けます」と鶴太郎さん。

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人も絵も第一印象が持つ力って大きいんです

絵を始めて30年になる鶴太郎さん。きっかけは一輪のツバキの花だった。

「38歳の時の2月でした。撮影に出かける早朝に、なんだか気配を感じると思って振り返ったら赤い花が咲いていたんです。なんてかわいいんだろうとえらく感動しましてね。この感動をどうやったら表現できるんだろうと考えたら、絵だなって突然思ったんです。絵なんて描けないし、描いたこともないのに。ちょっとやってみようと画材店に行き道具を集めたのが最初です。それからツバキは毎年描いていますが、最初のツバキの印象がずっと頭にありますね」

絵を描く際に大事にしているのは第一印象。

「描く絵もそうですが、何を描くかというインスピレーションも直感的な、これいい、なんかあるぞという第一印象を大切にしています。これってつまりは何かに感動しているんですが、そこからなぜそれを描きたいと思ったのか、いいと思い感動したのかのひもとき作業を始めます。自分がなぜ感動したのかを知りたいんですよね。だから絵を描く。僕にとって絵を描くことは自分を知ること、己との対話なんです。だから一生描くだろうし描き続けたいですね」

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〈Ⅱ.絶対主義と啓蒙主義の時代〉カトリック圏では信仰心を高める宗教画や王侯貴族の華やかな肖像画が盛んに描かれた時代。このチャプターでは本展の目玉ラ・トゥールの女占い師を含む計30点を展示。「わあ。ラ・トゥールですか。僕ね、大好きなんですよ。色彩バランスが素晴らしく、演劇的な表情もね。この時代によくここまで描けるよね。すごいなあ」

絵も演技も人付き合いも
余白を残す7分の感覚で

墨彩画から始まり、パステル、油絵などあらゆるものを描いてきた鶴太郎さん。今引かれるのは墨の世界。

「墨色って1滴水を入れると色が変わるでしょう。その加減で100色だって1万色だって作れるんですよ。そんな奥行きのある墨の濃淡で何かひとつ世界観を表現できたら面白いなって思っています。70代は墨の奥深さを究める、そんな自分の気配を感じます」

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  • 〈Ⅲ.革命と人々のための芸術〉欧州全土に近代化の波が押し寄せた19世紀は絵画も激動の時代。「僕ね、作家の感情が見える絵が好きでね。何をどう感じて筆にしたためたのか。だから印象派の作品に心動かされることが多いです。クロード・モネの『印象・日の出』には震えるほど感動しました。さーっとシンプルに描かれているのにものすごく詩情豊かなんです」

100歳を超えても絵は描いていたい

今年68歳になる鶴太郎さん。年を重ねることをポジティブに考えています。

「年をとるっていいことだよ。楽しいことがいっぱいありますよ。肉体的には衰えるけど、年を重ねることでしかできないこともあるからね。絵も年齢を重ねてきたからこその表現がある。僕の理想とする絵は自分の思いをいかに口数少なくそぎ落とした状態で伝えられるか。さーっと描いているなかに味がある。そんな絵を墨で描けたらすてきだなって思います」

鶴太郎さんが人生で大事にしているのが〝7分で止める〞感覚。

「毎日1食なんですが、食事を腹7分目でやめておくと全て消化した状態でヨガに取り掛かれて一番調子がいい。これに気づいてからこの7分の感覚をキープしています。人様に対しても言い過ぎず出過ぎない。芝居も絵もそうです。余計な説明はせず3割余白を残して受け手に委ねる。空間があることで伝わるものもありますから」

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片岡鶴太郎作品展 「 いのちの讃歌 」

芸術家・片岡鶴太郎
命を注いだ30年間を凝縮した作品展
※墨彩画、油彩画、書、陶磁器など、初出展作品を含め100点以上を展示。

 

会期:2022年4月26日(火)~ 5月9日(月)
会場:西武渋谷店A館7階=催事場
住所:東京都渋谷区宇田川町21-1
電話番号:03-3462-0111(大代表)
営業時間:10~20時(最終入場は閉店30分前/最終日は17時閉場)
入場料:一般1000円、大学生・高校生・中学生800円、小学生以下無料
定休日:なし

この記事は、2022年3月27日発行の日経REVIVE4月号に掲載された内容です。

取材裏話

4月号「アート特集」片岡鶴太郎さん

表紙の赤が印象的な4月号アート特集。
国立新美術館で開催中のメトロポリタン美術館展に行ってまいりました。
静謐な空気が感じられる青い壁の部屋から始まり、一転、情熱的な赤の部屋へと続いていく。大きな部屋につながる小部屋を覗くと、そこにまた別の空間が現れる。仕切りと色の使い方がおもしろく、印象に残る展示でした。
そして、とにかく見応えのある作品が多い。片岡さんもひとつひとつの作品をじっくりと向き合うように見ておられ、取材時間が足りるかなと心配になるほど。結局、最後の方は駆け足になってしまったのですが、「また見にきます」と片岡さん。ぜひ、もう一度、今度はじっくりゆっくりご覧になってください。

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