9 2022

地産地消であるべき自然な姿へ

|現代建築|

カバー特集

posted by 日経REVIVE

辰巳琢郎さんの 「 現代建築 」 GOOD LIFE
時代を映す鏡。触れて、眺めて、思いをはせる

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2022年8月28日

日経REVIVE 2022年9月号カバー特集 辰巳拓郎さん1

建築は制約の中で生まれる
その背景を知るのが面白い

街を歩けばたくさんの建築物。
「公共建築物も個人宅も地域性や時代性がありますが、視点を変えて見るといろいろふに落ちて面白いんですよね」
20年以上リフォーム番組を担当し、建築通の一面も持つ俳優の辰巳琢郎さんに、建築との関わり方や現代建築のこれからについて話を聞きました。

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辰巳琢郎

たつみ・たくろう1958年生まれ、大阪府出身。高校2年生の時につかこうへいの舞台に感銘を受け芝居を始める。京都大学卒業と同時にNHK朝の連続テレビ小説「ロマンス」でデビュー。以降、俳優として活動するほか、司会、執筆、プロデュースにと幅広く活躍。丹下憲孝氏をはじめ、建築家の友人も多い。

撮影/海山基明 編集・取材/澤村 恵(編) ヘアメーク/釣谷ゆうき アートディレクション/本多康規(Cumu)

モダニズム建築、ゴシック建築、ブルータリズム建築などと聞くと小難しい印象が先立ってしまいますが、辰巳さんにとっての建築はもっと身近で温かいものだといいます。

「僕にとって、建築の根源って、子供の頃に家の中で作った隠れ家なんですよ。自宅にあった足踏みミシンにどこからか見つけてきた棒を立てかけて、そこに毛布や座布団を屋根に見立てて載せていって。自分の居場所なんですよね。ほっとできて安心できる場所。こもれるのが好きで、ミノムシが葉っぱを集めて身を守っているのに近い感覚。それを自分の好きなように作る楽しさみたいなものも、規模は小さいながらに感じていましたね」

そんな幼少期を経て、高校2年のときに芝居を始めた辰巳さん。舞台美術も一種の建築だといいます。

「大きな舞台上に建物を作っちゃうんだから立派な建築ですよね。僕にとって建築は第一に安心できる場所、次いで表現する場所だと思っています。だから演劇と建築ってリンクするんですよ。建築家と演出家って似てると思いませんか? 建築家も演出家もそこに集まる人をどう魅了していくか知恵を絞るわけでしょう?そんな視点で見ると、建築を身近に感じられるかもしれません。そもそも建築家って言葉の響きが硬いので皆さん大仰に考えがちですが、実はとっても身近な存在。だってどんなに短くても家の中に人生の3分の1はいるわけだから」

建築を身近に感じるコツや楽しむ方法はありますか?

「僕、デザイン以上にマテリアルに興味があるんです。絵画を鑑賞したり音楽を聴くのと同じように建築を楽しむのもいいんだけど、絵は触れてはいけないし、音楽も実体がないでしょう? でも建築は触れます。だから、この壁はどんな素材でできているのかなってどんどん触ってみたらいい。木、石、土、金属など。素材って本当に面白い。ちなみに僕、触るついでに必ず匂いも嗅ぎます。いぬ年だからかな(笑)。でもね、どんな建築物もすべて人間が工夫して造ってきたものなんですよ。当時の社会情勢はもちろん、年月を経て人類の歴史までも詰まっている。だから建築はロマン。そんな視点で楽しんでみてはいかがでしょう」

日経REVIVE 2022年9月号カバー特集 辰巳拓郎さん2
日経REVIVE 2022年9月号カバー特集 辰巳拓郎さん3

  • GOOD LIFE KEYWORD #1 触れられる「きょうおじゃました座・高円寺も小さいけれど日本のモダニズム建築のひとつだと思います。壁や手すり、扉など手の届くものは触ってみて五感で建物の温度みたいなものを感じてほしい」
  • GOOD LIFE KEYWORD #2 地産地消「その土地で取れた食材を使った料理にその土地のワインを合わせる。地産地消って一番自然で一番おいしいの。建築も一緒で、その土地で生きる木や土、石などを使った家づくりが理想です」

建築も人生も自然な形で
僕もそうありたい

建築には時代性に加えて地政学的な面白さもあると辰巳さん。

「例えば、島根県では赤い屋根をよく目にします。石州瓦と呼ばれるんですが、想像した通りこの地域は赤い土が取れるそう。その瓦は雪に強いことが分かって、日本海側の他の町でも使われています。北前船でつながっていたからかもしれません。逆に暑い地域は石造りだったり窓が小さかったり。こんなふうに建築物はその土地の気候風土とは切り離せないものなんです」

建築は人類の歴史と進化とともにありますが、辰巳さんはこれからをどう見ていますか?

「日本の建築は木とともに歩んできました。20世紀はコンクリートに席巻されましたが、もっともっと木を使うべき。地産地消っていうのかな。食と一緒でその土地で取れた木や土などのマテリアルを使うのが、やっぱり建築でも自然で、あるべき姿だと思うんです。そしてそれが人々にとって一番豊かであるという感覚を取り戻さないといけないと感じています。今ってどんどん建てて数十年で壊してまた建て替えるでしょう? 産業廃棄物も増えるし、残念なことですよ。それに木は実は長持ちします。200年かけて育った木は200年持つって聞いたことありませんか。最近は自分が年を重ねてきたこともあり、目線が変わってきました。風雪に耐えながらもそこに立ち続け、支える木の柱に勇気をもらっています」

建築って本来は身近で
人生に寄り添うものです

日経REVIVE 2022年9月号カバー特集 辰巳拓郎さん4日経REVIVE 2022年9月号カバー特集 辰巳拓郎さん5

What's GOOD LIFE for you?
最期まで
おいしく食べる

  • 「死んだ後のことは自分じゃ分からないけど、苦しまず、人に迷惑をかけず、自然に最期を迎えたい。食べることが好きだし、食べているうちは元気だろうしね。
    最期までおいしく食べられる人生にしたいです」
  • 日経REVIVE 2022年9月号カバー特集 辰巳拓郎さん7

この記事は、2022年8月28日発行の日経REVIVE9月号に掲載された内容です。