11 2022

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|読書|

カバー特集

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中江有里さんの「 読書 」GOOD LIFE
読書は一番身近な世界への扉

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2022年10月30日

古書の街、神保町で再発見
読書の魅力、本の価値

読み手でもあり、書き手でもある中江有里さん。
「読書は未知との出合いにつながる扉の一つ」そう語る中江さんと世界有数の古書の街、神保町で書店巡り。本との関わりや、年齢を重ねていく上で改めて気づいた読書の魅力について聞きました。

NAVIGATOR

中江有里

なかえ・ゆり1973年、大阪府生まれの女優、歌手、作家。 高校1年生の時に上京すると同時に芸能界デビュー。テレビドラマ、映画など多くの作品に出演する。近年は文筆家として小説や脚本を手がけたり、書評を書いたりするほか、テレビの情報番組などでコメンテーターとしても活躍。

撮影/NAE.JAY 編集・取材/澤村 恵(編) ヘアメーク/丸山智美 スタイリング/和田ケイコ アートディレクション/本多康規(Cumu)

衣装協力:ワンピース(MARILYN MOON)リング、ピアス(ともにete)

2006年に処女小説「結婚写真」を発表。22年5月には7作目となる「水の月」を出版し小説家として精力的に作品を生み出し続けながら、書評家としても活動する中江さん。読書に魅了されたきっかけは「文字」でした。

「小さな頃から文字が好きだったんです。興味津々でした。街の看板や広告、薬の説明書に至るまで。それが次第に本を読むことにつながったんですが、そのうち物語に興味が出てきて。小学校の高学年ぐらいかな。自分だったら物語をどう作るかな?って考えるようになりました。中学生になるとドラマにハマり、脚本家になりたいと思うように。中学3年生の時かな、初めて書いてみたんです。小説のような、脚本のようなものを。誰かに見せることもなかったですけど、書くことがとても楽しかった。そんなことを覚えています」

高校1年生で女優としてデビュー。
演じる側へと身を置いた中江さん。演じる難しさを実感しながらも、物語を紡ぐことへの憧れは持ち続けていたそう。そんな中江さんに転機が訪れたのが28歳の時。

「ラジオドラマの脚本を書くことに挑戦しました。公募でしたが、人に読んでもらうために書いたのは初めてでした。好きに書くだけの自己満足では終われない。プレッシャーもありましたし、自分の中にある物語を脚本という形にしていくわけですが、この物語は面白いと思ってもらえる? ちゃんと伝えられる? という怖さもありました。最初の小説も書き上げるのに2年かかったんですけど、終わらない長いマラソンをしているような感覚でした。途中書いても書いても空回り。思いはあるのに表現できない。もうダメだって何度も思いました。書くってかなりの体力と精神力が必要。それと同時に読むことがとても大事だなと改めて思ったんです。読んでいないと書けないって」

読書に関しては雑食だという中江さん。小説を書くようになってから全ての本が教科書だといいます。

「自分の感情だけでは書けないんですよね。書く上では読者目線も必要で。だから全ての本が教科書。純粋な読者とは少し違うけど、私は読む、書く両方のバランスを大事にしています」

私にとって「読む」「書く」は
食べることと似てるんです

「本を読むのって楽じゃないですよね。でもそれって知らないことを知識として得られている証拠。気になるキーワード、作家などを入り口にしてまだ見ぬ世界や物事を知りたいです」


PASSAGE by ALL REVIEWS
(右)パリの商店街パサージュをイメージした店内。それぞれの棚にはパリの通り名がつけられています。
(上)中江さんの書棚。書評をした本にはカラフルな付箋が。はがしたりはせず、そのまま棚に並びます。「古書って誰の本か分からないのが一般的ですが、ここは顔の見える古書店。面白いですよ」

本はその時代を映す財産
読者と著者の懸け橋を目指して

年間およそ200冊の本を読むという中江さん。読書はもちろん、本そのものにも大きな価値があるといいます。

「読書って一番身近な世界への扉だと思うんです。知らないことを知ることができ、知識に奥行きが出る。私も分からないことがあると新書を読みますが、大枠を知るのにとても役立ちます。50歳を目前に控え思うのは、年齢を重ねてからの読書って若い時とは全然違う面白さがあるということ。言葉の理解度もそうですが、心への浸透度が段違いに深い。これはいろいろ経験してきたからだろうなと。本自体は変わらないけれど、本が物差しになって自分の変化を教えてくれます。私は定期的に同じ本を読み返しますが、感じ方が変わっている自分に気づくことも楽しいです」

読み手と書き手の懸け橋として活動していきたいという中江さん。

「こんな人に読んでほしいという書き手の気持ち、こんな本を読みたいという読者の気持ちを書評、講演、棚主など、いろんな方法でつないでいけたらなと思っています。あとは本の物としての価値も広めたい。どんな紙で装丁し、どんな判型でって細部までこだわっているのが日本の本。もはや総合芸術なんですよ。そんな独特の個性や価値を伝えていきたいです」

「本って著者と出版社だけじゃなく印刷所、製版所、製紙業、デザイナーなど多くの人の手で創り上げられた総合芸術なんです。1冊1冊に個性があって価値がある。だから私は圧倒的に紙の本派」

  • ブックハウスカフェ
    自身が幼い頃読んでいたという思い出の絵本を手にする中江さん。「マリー・ホール・エッツの『わたしとあそんで』。懐かしいですね。絵本にも名作がたくさんありますからね。おい、めいにプレゼントで絵本を贈ったりもしますし、絵本の書評をすることもあります。ここは書棚に囲まれたカフェスペースがすてきですね」

「私、定期的に書店をパトロールするんですね。だから神保町にもお散歩がてら来ますよ。古書店だと普段出合えない本と出合えたりと発見があって面白いです」

  • 東京堂書店 神田神保町店
    ポップなどが少なく、目にも体感的にも穏やかな店内。買ったらすぐに読みたいというお客様の声から生まれた併設のカフェ「ペーパーバックカフェ」。落ち着いた照明と雰囲気で読書を楽しめる。

What's GOOD LIFE for you?
初めてのことを
恐れない

  • 「究極を言えば、あすが来ることも初めてですよね。未知の出来事もいっぱいある。そういう繰り返しの中で生きてきて今があると思うんです。だから初めてに臆せず一歩踏み出すことをこれからも続けていきたい」

この記事は、2022年10月30日発行の日経REVIVE11月号に掲載された内容です。

取材裏話

11月号「読書」中江有里さん

書店は学生の頃は待ち合わせに使ってみたり、学校帰りに買うともなく雑誌を立ち読みしてみたり、生活に組み込まれていた身近な場所でしたが、閉店が相次ぎ、寂しい限りです。今回ロケで訪問したブックハウスカフェで「11匹のねこ」、「ぐりとぐら」を発見。大人になって見るだけでも、絵のかわいらしさに思わず幸せな気持ちになりました。中江さんの言葉「読書は身近な世界の扉」、いつもはミステリー専門のセレクトも、少しは他のジャンルへ幅を広げていこうと思った次第です。

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