心が震えるサウンドに身を委ねてみませんか
|進化するジャズ|
カバー特集
posted by 日経REVIVE
日野皓正さんの「ジャズ」GOOD LIFE
心が震えるサウンドに 身を委ねてみませんか
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2023年9月24日
誰も創造したことがない音を
日野皓正が向き合うジャズの今
若い頃にはジャズクラブやジャズ喫茶に足を運んだという読者も少なくないのでは。近頃ジャズ離れをしていたな…そんなあなたに今月は進化を続けるジャズをお届けします。
ナビゲーターは日本を代表するトランペット奏者、日野皓正さん。
人生の全てが音楽だという日野さんに、ジャズの今までとこれからを伺いました。
NAVIGATOR
日野皓正
ひの・てるまさ1942年、東京生まれのジャズ・トランペット奏者。1967年に初のリーダーアルバム「アローン・アローン・アンド・アローン」をリリース。1975年にニューヨークを活動拠点にする。ライブ活動やアルバムを多数リリースし国内外で人気を博す。ジャズの名門レーベル、ブルーノートで日本人初の契約アーティストでもある。趣味はゴルフ。
撮影/七咲由梨 編集・文/澤村 恵 アートディレクション/本多康規(Cumu)
ジャズも人生も
愛こそ全て
独創的でソウルフル。唯一無二の演奏で“ヒノテル・ブーム”を巻き起こし国内外で人気を博したジャズ界の巨匠、日野皓正さん。トランペット奏者だったお父さまに初めてトランペットを渡されたのが9歳の時だったそう。それから71年間トランペットとともにジャズ音楽の世界で生きています。
「親父が使っていた古くなったトランペットを渡されたのが9歳の時。1日2時間これ吹けって言われてね。最初は、皆野球をやったりしてるっていうのに、なんでだよ、と思っていたけど、吹かないと怒られるしさ(笑)。練習してたんですよ。でもね、僕勉強もできなかったし、なんていうのかな、トランペットをやるのはもうDNAで決まっていたんだと思っているんです。だから音楽で生きていくっていうのは自然に分かっていましたね。
中学に入る頃、親父が浅草の国際劇場にサッチモこと、ルイ・アームストロングが来るっていうんで連れていってくれたんだけど、サッチモはすごかった。圧倒されたし心が揺さぶられた。この人すごいなって。人の心を打つには自分自身を出していかなくちゃならない。それは時にエゴイズムでもあるから71年たった今も葛藤する部分ではあるんだけど、俺はこう生きている!みたいな魂を吹き込むことを大切にしているし、感覚的に気付けた経験だったのかな」
人生をかけてトランペットとジャズと向き合う日野さんですが、自身の演奏はいつ完成したと思いますか。
「僕は誰も創造したことのない音を奏でたい、聴かせたいと思っているから完成はしないと思っています。ジャズの音楽自体も日々進化しているからね。だから僕も奏法を変えたり間の取り方を変えたりしながら進化していかないと。試した奏法は全てノートに書いて記録。それを見返しながらトライ&エラーを繰り返して自分の可能性と創造性を探っています。あとゴルフのスコアもね(笑)」
- 「長年やってる奏法を変えるって音楽家にとってはリスキーでしかない。でも、トライ&エラーを繰り返すからこそ新しい音を創造することができる。チャレンジを重ね続けられる自分でいたい」
愛と尊重。それが全て
Give&Giveの精神で
71年のジャズ・トランペッター人生には、さまざまな出来事があったと思いますが、日野さんが持ち続けるジャズへのパッションの源は何でしょうか。
「それはもう、愛でしょう。そして全ての人を尊重する気持ちに尽きます。これが僕がジャズを続けている意味なんじゃないかと思っています。今まで散々世の中から、お客さまから、友達から、家族から愛をもらってきたんだもの。だから僕からも愛を与えていきたいんです。そういう生き方=演奏をしていきたいと思っています。それでお客さまが喜んでくれるなら最高に幸せなことです。僕の全てを出し切って愛を伝えたい」
日野さんは巨匠ながら現役でプレーヤーとして活躍しながらも後進の育成にも力を入れています。
「『ジャズは教えるものじゃない。自分が習うものだ』と言う人もいるけれど、そういうわけにもいかないじゃない。その昔ジャズ界の父と慕っていたマイルス・デイビスに演奏で上唇が水膨れになってどうしたものかと相談したんです。マイルスにもっと下唇を使えばいいと言われて。当時はその意味がよく分かってなかったんだけど、70過ぎた頃にこのことか! って分かってね。アート・ブレイキーとリハーサルをしていた時には『日野、自分の存在証明をしちゃダメだ』って言われてそれはそれはショックで。でも、これもまた何十年後かに気付きを与えてくれた。俺が俺がと力む演奏じゃ愛は伝わらないんだと。こんなふうにマイルスやアートが僕にくれた一言みたいに僕の経験が誰かの参考になればいいなと。だから分かち合っていかなきゃなって。Give&Giveの精神で」
今もなお己と向き合い挑戦と進化を続ける日野さん。その根っこにはジャズと人々への大きな愛が見えます。80歳の魂が鳴り響くトランペットをぜひジャズクラブで体感したいものです。
「ジャズ音楽は生きているからね。ぜひ現場に聴きに来てくれたらうれしい。一緒に盛り上がりましょう」
- 日野皓正クインテットwith スペシャルゲスト
80th Birth Celebrationツアー
~豪華ゲストを迎えての公演~
10/7(土)広島・三次市民ホール きりり10/8(日)滋賀・大津市民会館10/9(月祝)大阪・新歌舞伎座*詳しくはこちらから
https://terumasahino.com/#schedule
- 「お客さまを喜ばせたいのはもちろんなんだけど、今日はあれやってこれやってこんなふうにやってやる! と思ったらダメになる。本来の自分の味が出ない。だから頭の中を無にして演奏します」
この日は日野さん他、若手メンバーで構成されたクインテットライブのリハーサルが行われた。それぞれが制作した楽曲の譜面を見ながらセッション。業界歴の長さに関係なく意見を交わす姿が見られた。
What's GOOD LIFE for you?
愛の還元
- 「僕にとってジャズ=息をするのと同じで人生そのものなんです。だから僕にとってのグッドライフは愛の還元かな。今までもらった愛を返していきたいの。こんなふうに思うのも年を取った証拠かな(笑)」
– SPECIAL INFORMATION –
東京芸術祭 2023 芸劇オータムセレクション
太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ)
『金夢島 L’ÎLE D’OR Kanemu-Jima』
2023年10月20日(金)~26日(木)
※23日(月)休演
世界的演出家のアリアーヌ・ムヌーシュキンが率いる演劇集団「太陽劇団」の待望の来日公演。日本文化芸術へのオマージュともいえる本作。ぜひ劇場でその世界観を堪能して。
問:東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296
この記事は、2023年9月24日発行の日経REVIVE10月号に掲載された内容です。
取材裏話
10月号「進化するジャズ」日野皓正さん
撮影・インタビュー中は、ダジャレを言いたくてしょうがない日野さん。お父さまはトランペット奏者、お母さまはタップダンサーとのことで、日野さんも撮影の合間にタップを踏んだり。根っからのエンターテイナーの日野さんですが、インタビューが終了し、バンドメンバーとの音合わせになると急に空気感が一変。この日は日加藤一平さん(ギター)、マーティ・ホロビッツさん(ベース)はじめクインテッドメンバーとの音合わせです。一旦セッションが始まるとブルーアワーの都会の高層ビル風景が目に浮かんできました。
記事内で紹介している場所