コラム
ART
posted by 日経REVIVE
東京国立近代美術館にて開幕
ヒルマ・アフ・クリント展
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2025年03月13日

2025年3月4日より、東京国立近代美術館にて開催中です。
スウェーデン出身の画家ヒルマ・アフ・クリント(1862-1944)は、ワシリー・カンディンスキーやピート・モンドリアンら同時代のアーティストに先駆け、抽象絵画を創案した画家として近年再評価が高まっています。2025年3月4日、抽象絵画の先駆者ヒルマ・アフ・クリントのアジア初となる大回顧展が開幕しました。
東京国立近代美術館 美術課長 三輪健仁さんによる本展覧会の解説を交え、ご紹介します。
展覧会の見どころ
ヒルマ・アフ・クリントの残した1000点を超える作品群は、彼女自身が死後20年は作品を公開しないよう希望していたと言い伝えられており、長らく限られた人々に知られるばかりでした。1980年代に入ってようやくいくつかの展覧会で紹介され始めます。1986年にロサンゼルス・カウンティ美術館で作品が一般公開され、2013年にストックホルム近代美術館からスタートしたヨーロッパ巡回の回顧展では100万人以上の来場を記録。2018年にグッゲンハイム美術館(アメリカ、ニューヨーク)で開催された回顧展では、同館史上最多※となる60万人超もの動員を記録しました。
※2019年時点
王立芸術アカデミーで正統的な美術教育を受けたアフ・クリントは、肖像画や風景画で評価を受けた画家としてのキャリアがある一方で神秘主義などの秘教思想やスピリチュアリズムに傾倒し、アカデミックな絵画とまったく異なる抽象表現を生み出します。1906年から1915年にかけて「神殿のための絵画」と呼ばれる全193点の抽象絵画を制作しており、本展覧会でも一部のシリーズやグループをご覧いただけます。
展覧会の構成
1882年、アフ・クリントは王立芸術アカデミーに入学、正統的な美術教育を受けることになります。人体デッサンにおける正確な形態把握、あるいは植物図鑑のように緻密な写生などからは、彼女が習得した技術の高さを見て取ることができます。1887年、アカデミーを優れた成績で卒業したアフ・クリントは、主に肖像画や風景画を手がける職業画家としてのキャリアを順調にスタートします。また児童書や医学書の挿画に関わったり、後にはスウェーデン女性芸術家協会の幹事という実務的な仕事を担ったりと、多方面で活躍を見せました。

- 『ヒルマ・アフ・クリント展』展示風景、東京国立近代美術館、2025年
- 『ヒルマ・アフ・クリント展』展示風景、東京国立近代美術館、2025年
アフ・クリントがスピリチュアリズム(心霊主義)に関心を持ち始めたのは1879年頃、17歳の時とされています。アカデミーでの美術教育(1882-87年)と平行しながら、スピリチュアリズムは彼女の思想や表現を形成し、決定づける要因となっていきます。
1896年には、親しい4人の女性とグループ「5人(De Fem)」を結成し、1908年頃まで活動しました。残されたドローイングの数は膨大で、破線の連なりが続くシンプルなものから、植物、細胞、天体など具体的なモティーフが認められるものまでヴァリエーションも多岐にわたります。アフ・クリントはこの体験を通じて、自然描写に根ざしたアカデミックな訓練から離れ、新しい視覚言語を生み出し始めます。

1904年、「5人」の交霊の集いにおいて、アフ・クリントは物質世界からの解放や霊的能力を高めることによって人間の進化を目指す、神智学的教えについての絵を描くようにという啓示を受けます。これにより開始されたのが、全193点からなる「神殿のための絵画」です。
「神殿のための絵画」は4年の中断期間を挟みつつ、1906年から1915年まで約10年をかけて制作されました。サイズ、クオリティ、体系性、すべての面からアフ・クリントの中核をなす作品群で、〈原初の混沌〉〈エロス〉〈進化〉〈10の最大物〉〈白鳥〉といった複数のシリーズやグループから構成されています。〈10の最大物〉は、高さ約3.2m、幅約2.4mの巨大な絵画で、回廊をぐるっと巡るかのように展示されています。

- 『ヒルマ・アフ・クリント展』展示風景、東京国立近代美術館、2025年
- 『ヒルマ・アフ・クリント展』展示風景、東京国立近代美術館、2025年
- 『ヒルマ・アフ・クリント展』展示風景、東京国立近代美術館、2025年
- 『ヒルマ・アフ・クリント展』展示風景、東京国立近代美術館、2025年
- 『ヒルマ・アフ・クリント展』展示風景、東京国立近代美術館、2025年
- 『ヒルマ・アフ・クリント展』展示風景、東京国立近代美術館、2025年
1920年に介護していた母親が亡くなると、以前より関心を寄せていた神智学から分離独立した人智学への系統を深めます。
人智学の創始者ルドルフ・シュタイナー(1861-1925)に、思想面だけでなく作品制作でも影響を受けたアフ・クリントは、幾何学的、図式的な作品から、〈花と木を見ることについて〉をはじめとした水彩のにじみによる偶然性を活かし、色自体が主題を生み出すような作品へとその表現を変化させていきました。

- 『ヒルマ・アフ・クリント展』展示風景、東京国立近代美術館、2025年
- 『ヒルマ・アフ・クリント展』展示風景、東京国立近代美術館、2025年
1920年に始まる水彩を中心とした制作は、人智学や宗教、神話に関わるような具体的モティーフを回帰させながら、晩年まで続きます。
制作の一方で、1920年代半ば以降、アフ・クリントは自身の思想や表現について記した過去のノートの編集や改訂の作業を始めます。特に注目すべきは「神殿のための絵画」を収めるための建築物=神殿の構想です。制作が完了してから15年以上経過してもなお、作品を収める理想の螺旋状の建築物について記し、作品配置の具体的な計画の検討も重ねていました。この神殿が実現することはついにありませんでしたが、自らの思想の絶えざる編集と改訂の作業は、絵画制作を含む彼女の仕事全体が、いかに厳密な体系性を目指していたかの証左となるものでしょう。

- 『ヒルマ・アフ・クリント展』展示風景、東京国立近代美術館、2025年
- 『ヒルマ・アフ・クリント展』展示風景、東京国立近代美術館、2025年
ヒルマ・アフ・クリント展

会期:2025年3月4日(火)- 6月15日(日)
会場:東京国立近代美術館1F 企画展ギャラリー
〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1
休館日:月曜⽇(ただし、3月31日、5月5日は開館)、5月7日(水)
開館時間:10:00 – 17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)※入館は閉館の30分前まで
主催:東京国立近代美術館、日本経済新聞社、NHK
協賛:大林組、DNP大日本印刷
企画協力:ヒルマ・アフ・クリント財団
後援:スウェーデン大使館
展覧会公式サイト:https://art.nikkei.com/hilmaafklint/
お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)