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M. K. Čiurlionis: The Inner Constellation
【企画展レポート】チュルリョーニス展 内なる星図
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2026年04月02日
2026年3月28日(土)から国立西洋美術館で開催されています。
リトアニアを代表する芸術家、ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(1875-1911)。
祖国リトアニアにおける生誕150周年の祝賀ムードを引き継いで開催される本展は、日本では34年ぶりの回顧展。国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)が所蔵する主要な絵画やグラフィック作品、約80点を紹介します。人間の精神世界や宇宙の神秘を描いた幻想的な作品の数々のうち、謎に包まれた最大の代表作《レックス(王)》が日本で初公開。また、音楽形式を取り入れた連作や、自身の手になる楽譜、展示室に流れる旋律をとおして、優れた作曲家でもあった画家の個性と感性を体感することができます。
2000年以降、オルセー美術館(パリ)をはじめヨーロッパ各地で展覧会が開催されるなど再評価の機運が高まるチュルリョーニスの世界をぜひご堪能ください。
展覧会のみどころ
祖国リトアニアにおける生誕150年記念イベントの一環として開催される本展は、日本では34年ぶりの大回顧展となります。オルセー美術館(パリ)をはじめヨーロッパ各地で展覧会が開催されるなど、近年、国際的評価が高まる芸術家チュルリョーニスをご紹介しています。
現存するチュルリョーニス作品の大部分を所蔵する国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)の全面協力のもと、厳選したおよそ80点が来日します。
「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展(2008年)など、日本では一般にあまり馴染みのない優れた作家をいち早く紹介してきた国立西洋美術館ならではの展覧会です。西洋美術の多彩で奥深い魅力をお楽しみください。
チュルリョーニスが絵画制作に取り組んだ期間は約6年間と、けっして長くありませんが、今日その評価を確固たるものにしているのは、ソナタ形式の絵画連作などに見られる音楽様式の導入です。同時代の画家たちとは異なり、作曲家ならではの独特なアプローチで絵画と音楽の融合を試みました。本展会場では彼の音楽も流し、優れた作曲家でもあった画家の繊細な感性を眼と耳で体感することができます。
チュルリョーニスは祖国リトアニアの民話などの民俗文化を着想源とする一方で、神智学や天文学など、当時の国際的な思想潮流にも関心を寄せていました。
本展では、人間の精神世界や宇宙の神秘を描いた幻想的な作品の数々から、チュルリョーニスの作品で唯一1メートルを超える大作《レックス(王)》が日本で初めて展示されます。
展示構成
1875年9月22日、ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニスは、リトアニア南部の町で慎ましい家庭に生まれた。オルガン奏者の父をもち、音楽が身近な環境で育ったチュルリョーニスは、幼少の頃から音楽の才能を示し、1894年初め、18歳の時に作曲を学ぶためポーランドのワルシャワ音楽院に入学する。1901年までワルシャワに住み、交響詩《森の中で》をはじめとする音楽作品を制作する傍ら、アマチュア画家として絵を描くこともあった。さらにライプツィヒの音楽院で学んだのち、チュルリョーニスが長年の夢であった絵画の道を本格的に志すのは、1902年頃のことである。
1904年の春、28歳の時には、新たに開校したワルシャワ美術学校に入学する。チュルリョーニスの初期の絵画作品には、象徴主義的な気分の色濃く漂うものが多い。その大部分が失われ現存しないが、1904年に制作された《森の囁き》では、彼の絵画を特徴づける音楽性がすでにみとめられる。それから約6年間の短い画業のなかで、情熱に突き動かされるかのように、300点以上もの作品が手掛けられることになる。
1904年、油彩/カンヴァス、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵
M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.
1907年にリトアニアの首都ヴィリニュスに移り住むまではワルシャワに生活の拠点を置きながらも、チュルリョーニスにとって、祖国の豊かな自然はつねに創造の源であり続けた。また、1905年のコーカサス地方への旅で出会った壮大な山々の光景は、自然の力に眼を開く契機となった。だが、チュルリョーニスの作品においては、写実的ないし地誌的な風景描写はごくわずかな例外を除き存在しない。そこではむしろ、自然の生命感が抽象的にとらえられ、抒情的な気分や象徴的な意味を吹き込まれている。自然のモティーフはしばしば擬人的な形態で表わされ、時には画材が生み出す偶発的なイメージを利用することもあった。チュルリョーニスがとくに関心を寄せたのが、自然の動的な移ろいと循環のプロセスである。そうした自然のリズムにたいする関心は、《春》や《冬》といった連作に結実し、後者においてはほとんど幾何学的な抽象表現にまで接近している。
1907年、テンペラ/紙、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵
M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.
1906年、テンペラ/紙、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵
M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.

絵画と音楽の融合は、チュルリョーニスが近代美術史上で到達した、最も独創的な位置を占めている。現存する初期作品のうちにはすでにこのテーマを扱い、音楽的なタイトルをもつものもあるが、彼が最も集中的かつ体系的にこの課題に取り組むのは、1907年から1909年にかけてである。19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパでは、ボードレール、ワーグナー、ニーチェらの思想から影響を受け、多くの画家が絵画と音楽の融合をめざした。だが、同時代の画家たちとは異なり、チュルリョーニスは、色彩による共感覚的表現にはほとんど関心を払わなかった。むしろ彼は、音楽の構造を絵画の構造に応用しようと試みた。彼によれば、「音楽はみずから固有な構造をもち、そして絵画も音楽のように構造をもちうる」。
そうした試みは、「フーガ」そして「ソナタ」連作といった作品群に結実する。連作という絵画形式によって、チュルリョーニスは、空間芸術である絵画に時間の流れを導入したのである。これらの作品では、伝統的な遠近法にもとづく統一的空間は放棄されている。画面は水平に分節された複数の独立した層からなり、各層(声部)が音楽における対位法さながらに共鳴することで、重層的な空間を形成しつつ、ポリフォニー的な響きの印象を生んでいる。このようにして、チュルリョーニスの絵画は20世紀の抽象絵画の成立に先立ち、自律性を獲得したのである。
1908年、テンペラ/紙、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵
M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.
1908年、テンペラ/紙、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵
M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.

18世紀末以来、リトアニアはロシア帝国の支配下にあり、厳しい抑圧を受けていた。だが、1904年の日露戦争でのロシアの敗戦と翌年のロシア革命を受け、リトアニアにおいて民族解放の機運が急速に高まるにつれ、チュルリョーニスもまたこの運動に積極的に身を投じていく。彼はリトアニア美術展を組織した最初のメンバーとなった。失われた国民/国家のアイデンティティを取り戻すために人々の拠り所となりえたのが、芸術にほかならなかったのである。チュルリョーニスは、リトアニアの地方に息づく民話や民謡、民芸といった民衆文化の再評価こそがリトアニア的な芸術様式の構築に不可欠であると考え、しばしばそれを自身の作品の着想源とした。リトアニアの伝統的な十字架は、民族復興の象徴的なモティーフのひとつである。一方で彼は、この時代を代表する精神主義的な運動である神智学や、カミーユ・フラマリオンの天文学をはじめ、国際的な思想潮流にもけっして無関心ではなかった。《祭壇》や《レックス(王)》といった、人間の精神世界や宇宙の神秘をめぐる深い思索に満ちた作品の数々は、一民族の枠組みを超えた普遍的な性格を帯びている。
1909年、テンペラ/カンヴァス、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵
M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.
1909年、テンペラ/紙、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵
M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.
1908年以降、チュルリョーニスは画家としてのさらなる飛躍と成功を求め、ロシアのサンクトペテルベルクを訪れるようになる。チュルリョーニス最大の作品である《レックス(王)》は1909年のサンクトペテルベルク滞在中に描かれた。当時のロシア芸術界の重鎮であったアレクサンドル・ベヌアは、この作品についてこう述べている。
「その途方もない魅力と真のメッセージは、優しくも哀しく、にもかかわらず甘ったるさなど微塵もない特異な配色にある。律動的に輪をなす天体の円環にある。地球の切なげな丸みを覆い、光輝く草原のように広がる曙が織りなす神秘的な魅力にある。[中略]ここにこそ芸術の真髄がある。」
しかし、チュルリョーニスはこうした好意的な評価を知ることはなく、伴わない名声に失望し、傷つきやすい精神は憂鬱に苛まれていった。ミュンヘンで開かれるミュンヘン新芸術家協会展覧会出品への招待が彼のもとへ届いた時には、遅すぎた。1910年の暮れには、チュルリョーニスは重い病の床に伏していた。翌年にはワルシャワ近郊のサナトリウムに入院し、一時は回復するものの、肺炎を患い、4月10日に35歳の生涯を閉じた。
チュルリョーニス展
内なる星図
1909年、テンペラ/厚紙、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵
M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.
会期:2026年3月28日(土) – 6月14日(日)
会場: 国立西洋美術館 [東京・上野公園] 企画展示室B2F 〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
開館時間:9:30~17:30(毎週金・土曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、5月7日[木](ただし、5月4日[月・祝]は開館)
主催:国立西洋美術館、読売新聞社、国立M. K. チュルリョーニス美術館
特別助成:リトアニア共和国文化省
助成:国立西洋美術館柴原慶一基金
後援:J-WAVE
協力:駐日リトアニア共和国大使館、西洋美術振興財団
ホームページ:https://2026ciurlionis.nmwa.go.jp/
お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)






