コラム
ART
posted by 日経REVIVE
進化する地方発信の芸術祭
その土地で育てる。対話を楽しむ
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2023年08月25日
日経REVIVE Web版では日経REVIVE 本紙を踏襲しつつ、「余暇」「趣味」を深掘りしていきます。
その独自テーマとして【アート】に大注目していきます。
第1回は本紙2023年6月号(板垣李光人さんの「アート」GOOD LIFE)で取材させていただいたスパイラル/株式会社ワコールアートセンター様をWeb版独自で訪れ、同社のアート事業への取り組みや2023年6月号の取材裏話でもお伝えした「道後アート2023」についてお話を聞きました。
スパイラルが目指す「生活とアートの融合」とは
1985年の創設以来、「文化の事業化」を謳ってきた株式会社ワコールアートセンターは、青山にある複合文化施設スパイラルの館内においてさまざまな展覧会や催事を行なってきました。また、2000年には「アートライフ宣言」を発表し、アートの実社会への応用を目指して、クリエイティブネットワークを活用しながらスパイラル以外でのプロデュース活動を展開しています。これまでに千葉県柏市の「柏の葉キャンパスシティ」や神奈川県横浜市の「象の鼻テラス」など数多くのプロジェクトを遂行し、近年では新たな拠点形成を行なうなど、活動フィールドも広範にわたっています。
詳細:SPIRAL ART PRODUCE
- 横浜市より企画・運営を委託されている「象の鼻テラス」
Photo:Ryusuke Ohno / ©️Arts Commission Yokohama - オープン時の開発支援を行った「太田市美術館図書」
photo_daichi ano
- スパイラル/株式会社ワコールアートセンター
キュレーター 大田 佳栄(おおた よしえ)様
略歴:スパイラルキュレーター。館内外のアートプロジェクトを多角的に推進、現代美術を軸にした展覧会・フェスティバルのキュレーション、国際事業推進などを担う。2012年より国際交流事業「Port Journeys」ディレクター(横浜・象の鼻テラス)。Lu Yang展「電磁脳神ーElectromagnetic Brainology」(2018)、石本藤雄展「マリメッコの花から陶の実へ」(2018−2019)。「道後オンセナート2022」「道後アート2023」キュレーター。2022−2023、京都府文化力による未来づくり審議会委員。
「アートライフ宣言」で目指したことは、“アーティストと、企業・行政、デベロッパーなど社会を構成するステークホルダーの協働によって、アートイベントやフェスティバル、文化交流を促進するさまざまなプロジェクトなどを企画運営し、街全体を豊かにしていくこと” と大田さんは言います。
その館外でのプロデュース活動の一環として、現在進めている「道後アート2023」について伺いました。
3カ年で生まれ変わる道後のアート
「道後アート2023」:https://dogoonsenart.com/は愛媛県松山市の道後温泉地区で、本館保存修理後期工事期間に合わせ2021~23年度までの3年間にわたって取り組んでいる「みんなの道後温泉 活性化プロジェクト」の一環として開催されています。
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<道後アート2023>
会期:2023年4月14日(金)~ 2024年2月29日(木)
場所:道後温泉地区
主催:未来へつなぐ道後まちづくり実行委員会
企画プロデュース:スパイラル/株式会社ワコールアートセンター
URL:https://dogoonsenart.com/
同社のプロデュースによって推進されるこの取り組みは、道後温泉本館の改築(1894年)から120周年を記念し、プレオープンの2013年12月24日から約1年を通して実施されたアートフェスティバルである「道後オンセナート2014」に由来します。
日本最古といわれる道後温泉は「日本三古湯」とも呼ばれ、「日本書紀」にも登場します。観光の中心地である道後温泉本館には日本唯一の皇室専用浴室「又新殿」もあり、保養地としても知られる場所でした。この温泉地でフェスティバルの検討を進めるに当たり、“当初は行政も地域も手探り状態で、地元の旅館組合や商店街の方々からの反発もあった”と大田さんは当時を思い出されていました。
しかし、地元で活躍する若手クリエイターや地元の若手を推進メンバーに組み込み育成しながらプロジェクトを進めていくことで、「最古にして、最先端。」というコンセプトを掲げた事業方針は多世代のまちの人々に広く受け入れられ、フェスティバルは大盛況に終わります。この結果を受けて、地元の方々の見方も変わっていったとか。
それから10年の時が経ち、道後温泉地区の新たな活性化事業として「みんなの道後温泉 活性化プロジェクト」が 2021年から3カ年の取り組みとして始まります。同社は再び企画プロデュースとして参画。これからの10年を見据え、“単にアート作品を飾るだけではなく、街と人を主人公に、みんなが参画できるまちづくりに発展させる”という思いで、プロジェクトを推進しています。
2021年度 地熱づくり
関係人口づくりを進め、ふつふつとアートへの動きを取り戻す
「クリエイティブステイ公募プログラム」 約50名のアーティストが道後に滞在
2022年度 道後オンセナート2022
2014年以来、4年に一度開催しているアートフェスティバル
「いきるよろこび」をテーマに開催し、観光人口の拡大を図る
2023年度 道後アート2023
アート作品を見せるだけでなく、新たな切り口として“クラフト”にも着目
コロナ禍からの回復と、インバウンドの獲得を目指す
この3カ年プロジェクトの集大成である「道後アート2023」は、エマニュエル・ムホーさんのシンボル作品が道後商店街に完成したのを機に 2023年4月14日に幕を開けました。
7月からは「クラフトミュージアム」として、地域産品を様々なクリエイターやアーティストの視点で再編集し、工芸の未来の形を可視化する回遊プログラムが開催されています。
「DIRECTOR’S MARKET」
道後温泉地区の旅館やホテルのロビー空間と商店街の店舗などの一角にポップアップショップを設け、工芸品や地元のものを再編集し制作された新たな作品を展示・販売
篠原 ともえ 地球が生んだプロダクト 伊予砥 ©Tomoe Shinohara / DOGO ART 2023
「U.F.O. – Unidentified Fabulous Object -未確認工芸物体」展
日本の工芸分野から、技術と制作の背景や視点のいずれにおいても、さらに秀でた芸術性のある作品を見出して展示し、工芸の未来を見据える特別展示
©Phannapast Taychamaythakool×Iyo Mizuhiki Kinpu Cooperative Association / DOGO ART 2023
2014年以来、同プロジェクトに長くかかわってきた大田さん。最後に “道後温泉は歴史や文学、温泉、自然(海・山)、作家、人といったリソースが豊富でとても魅力的な場所。地元の方々は自分たちの街を愛し、誇りを持って生活されていて、街全体を豊かにしていこうという気質が感じられる。ぜひ道後を訪れて、体験してほしい”と締めくくりました。
株式会社ワコールアートセンター
電話番号:03-3498-1171(代表)
設立:1985(昭和60)年8月1日
資本金:5,000万円(株式会社ワコールの100%出資)
事業内容:複合文化施設 スパイラルの事業運営管理
従業員:120名