コラム
ART
posted by 日経REVIVE
アートと工芸でつながる北陸
北陸を知り、今をいきる作家たちと出会う
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2023年10月19日
日経 REVIVE Web版独自で【アート】を深堀していく記事の第5弾は、GO FOR KOGEI 2023 の総合監修・キュレーターをされている東京藝術大学名誉教授 秋元雄史さんのインタビューをお届けします。
- – 目次 –
- ・固定概念をひっくり返す、美術としての工芸
- ・GO FOR KOGEI 2023
- ・物質的想像力と物語の縁起―マテリアル、データ、ファンタジー
- ・ディテールを重視する。取り組みへのこだわり
- ・今後の展開
- GO FOR KOGEI 2023 総合監修・キュレーター
東京藝術大学名誉教授 秋元 雄史(あきもと・ゆうじ)様
略歴:東京藝術大学名誉教授、金沢21世紀美術館特任館長、国立台南芸術大学栄誉教授、美術評論家。1955年東京生。東京藝術大学美術学部卒業。1991年から直島のアートプロジェクトに携わる。2004年~2006年地中美術館館長。2007年~2016年金沢21世紀美術館館長。2015年~2021年東京藝術大学大学美術館館長・教授。2017年~2023年練馬区立美術館館長。主なプロジェクト・展覧会は、「直島スタンダードⅠ、Ⅱ」(直島・香川)、「金沢・世界工芸トリエンナーレⅠ、Ⅱ、Ⅲ」(金沢、台湾)、「工芸未来派」(金沢、ニューヨーク)、「ジャポニズム2018『井上有一』展」(パリ、アルビ・フランス)、「あるがままのアート 人知れず表現し続ける者たち」展(東京・日本)等。2020年から「北陸工芸の祭典GO FOR KOGEI」をディレクション。著書には『アート思考』/プレジデント社など。
固定概念をひっくり返す、
美術としての工芸
9月15日、GO FOR KOGEI 2023開催地 富山に滞在されていた秋元さんを訪ねました。
GO FOR KOGEI は2020年から始まった日本の工芸の魅力を発信する北陸工芸の祭典です。今年で4回目の開催となるGO FOR KOGEI の成り立ちをお聞きしました。
“北陸は工芸の産地であると同時に、自然・歴史・食など広い意味での文化が豊富です。この街の美しさ、文化を皆さんに伝えたい、ということを目的として GO FOR KOGEI を始めました。”と秋元さん。
「GO FOR KOGEI」という名称について、“日本人にとって工芸や民藝は身近で、現代アートよりもイメージしやすく、興味を持ってもらいやすいのですが、同時に身近な道具というその固定概念を変えていきたいとも考えていて、少し美術寄りのアプローチで取り組むことにしました。欧米では、絵画・彫刻などの純粋美術に比べ、工芸・建築などの用途や機能を持った応用美術は少し価値が低いものだとされる傾向があります。このイベントは日本だけでなく世界にも目を向けています。欧米の工芸に対する価値観をひっくり返し、絵画も工芸も一緒に見てもらうことで固定概念を外し、美術として見直してもらいたいという意図が根底にあります”と説明してくれました。
実際、GO FOR KOGEI は北陸工芸の祭典としながら、現代アートから工芸まで幅広いアーティストが、さまざまな作品を展示しています。これが一つ大きな特徴なのかもしれません。
「アート」と「工芸」という言葉の違いや定義については一般的に広く議論されてはいますが、あえて秋元さんのお考えを伺いました。
“言葉としては、アートと工芸を分けて表現する場合もありますが、実際はグレーゾーンで一概に分けることは出来ません。工芸であっても、用途だけではない美しさや思いが込められた作品はたくさんあるので、アートと工芸の間にあるグラデーションを感じ、それぞれのライフスタイルに合わせてどう楽しむかが重要なのでは”と秋元さん。
たしかに、「GO FOR KOGEI 2023」のメッセージには、“工芸、現代アート、アール・ブリュットの運命的出会い”とあり、実際に作品を観てみると、工芸の枠組みを超えたアートの世界を実感することが出来ます。
“現代アートの鑑賞は、例えば「ダヴィンチのモナリザを観る」ということとは異なります。日本の美術鑑賞は、すでに様々な人によって評価されてきたいわゆる完成された作品を受動的に鑑賞する傾向にあります。一方で、現代アートは出来立てほやほや。作家もまさに作っている過程にある状態なので、もっと受け手側が作品を観て楽しむということを深めてほしいと思っています。今の時代を生きているアーティストが、何を感じ、何を表現しているのか?といったことを、観てもらえたらきっと楽しいと思います”と続けてくれました。
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北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023
物質的想像力と物語の縁起―マテリアル、データ、ファンタジー会期:2023年9月15日(金)–10月29日(日)
時間:10:00-16:30(入場16:00まで)
会場:富山県富山市 富岩運河沿い(環水公園エリア、中島閘門エリア、岩瀬エリア)
休場日:樂翠亭美術館(水曜)、富山県美術館(水曜)、ほか会期中無休
URL:https://goforkogei.com
「GO FOR KOGEI 2023」では、3つのエリアで工芸、現代アート、アール・ブリュットを跨ぐ26名のアーティストが参加し、その作品を披露しています。(詳細はこちら)
その3つのエリアと26名のアーティストの選定の過程を伺ってみました。
“エリアについては、現実的な制約があったのはもちろんですが、実はとってもアナログだったんです。「水と夢」というテーマもあったので、まずは環水公園と岩瀬の間の富岩運河沿いをイメージし、その中間でちょうどいい場所を探しました。”候補地には秋元さんはじめとするスタッフが直接伺い、説明を重ね、イベントへの協力を取り付けていったそうです。
“アーティストについては、陶器などの土もの、絵画・二次元作品、空間・インスタレーションの3つの分野で選定し、選定したアーティストに合わせてこちらから場所を指定しました。アーティストにそれぞれの展示する場所で展覧会の物語をイメージしてもらい、制作に取り組んでもらったんです”
実際にエリアごとに作品を観てみると、まさにその場所と作品の調和と融合をひしひしと感じることが出来ます。
増田セバスチャン
作品:Polychromatic Skin – Gender Tower – #北陸
横野明日香
作品:2023 のダム
総合監修・プロデュースする中で、秋元さんは現場に足を運び、実際にアーティスト全員の工房を見に行かれているそうで、“展覧会では失敗作や工房の雰囲気も再現し、制作の中で何が起きているのかというプロセスでアーティストの思いを伝えていきたい”という考えを体現しています。
続けて、作品の楽しみ方については、“小学校に入学した時に友だちを探す感覚で接してもらいたいと思っています。「どうみるか」を考えるのではなく、手探りでいい。観る側も心を開いて、その人なりの感覚で作品と出会っていくとよいのでは”とのことです。
物質的想像力と物語の縁起 ―マテリアル、データ、ファンタジー
展覧会タイトルの「物質的想像力」とは、フランスの科学哲学者で、美術や建築の世界に多大な影響を与えたガストン・バシュラール(1884-1962)の著書『水と夢: 物質的想像力試論』の中で物質(マテリアル)を詩学的な視点(イメージ)から論じる際に使われた用語です。
その意味についてさらに詳しく教えていただきました。
“バシュラールの著書の意味をさらに応用して解釈し、絵画・彫刻、工芸、インスタレーションなどの美術に限らず、世の中すべてに存在する物質(モノ)とのやり取りから生まれ出るイマジネーションを「物質的想像力」と表現しました。今は美術をジャンル別に見る傾向がありますが、物質(モノ)と向き合うことで美術が出来上がっていることを伝え、そのジャンルの概念を取り去りたかったんです”と説明してくれました。
固定概念や先入観を持たず美術を楽しむ。作品はもちろん、その奥にあるアーティストの思いやプロセスを伝えたいという思いが、秋元さんの説明から伝わってきました。
それぞれのアーティストの物語が感じられる作品の詳細はこちらから。
ディテールを重視する。
取り組みへのこだわり
総合監修・キュレーターという立場でありながら、積極的に現場レベルまで踏み込む秋元さんに、プロジェクトに取り組む上でのこだわりについて伺いました。
“仕事はディテールが重要だと思います。ものづくりをしてきた経緯もあるので、具体的なディテールまで見ないといい仕事は出来ないと思いますね。決まったフォーマットで世の中動いてないですから。
展覧会はその成功のほとんどがアーティストの作品によると考えています。アーティストに真剣に向き合い、本音でぶつかっていくことで信頼が生まれ、同じゴールに向かうことができます。そうしてお互いが納得したら、あとはアーティストに委ねます。私たちはいい作品を制作できる環境を作ることを一番に考えています”と秋元さん。
今後の展開
秋元さんは、現在MUFG工芸プロジェクトにて、日本が育んできた「ものづくり」の思想を継承・発展させ、未来へ繋げる活動をされています。
今後も「GO FOR KOGEI」の根本にあるコンセプトに基づき、国内外に向けて広く工芸の魅力を伝えていく活動を続けていかれるそうです。