8 2022

時代を映す鏡であり未来への羅針盤

|現代アート|

カバー特集

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佐藤可士和さんの「 現代アート 」GOOD LIFE
“本物”がくれる発見が面白い!

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2022年7月30日

日経REVIVE 2022年7月号カバー特集 佐藤可士和さん1

社会の見方、ものの見方が変わる
現代アートとデザインの共通点

アートというと小難しいイメージが先行しがちですが、「知れば知るほど深いし、人生、社会やものの見方が変わります」と佐藤可士和さん。その意味をひもとくべく、国立新美術館で開催中の「ルートヴィヒ美術館展」をまわりながらアートやクリエーティブについて話を聞きました。

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佐藤可士和

さとう・かしわ1965年生まれ、東京都出身のクリエーティブディレクター。多摩美術大学を卒業後、株式会社博報堂に入社。2000年に独立しクリエーティブスタジオSAMURAIを設立。セブン-イレブン・ジャパンやファーストリテイリングなどさまざまな企業のブランディングやクリエーティブを手がける。

撮影/枦木 功 編集・文/澤村 恵(編) アートディレクション/本多康規(Cumu)

ドイツのケルンにあるルートヴィヒ美術館。市民コレクターによる寄贈をベースにコレクションが形成されていて、20世紀初頭から現代までの潮流を見ることができる美術館です。そのうち約150点の作品を「ルートヴィヒ美術館展」で見ることができます。

「ルートヴィヒ美術館、名前は知っていましたが、実際に行ったことはないので、きょうは楽しみにしていました。コレクターを切り口にキュレーションがなされていてとても面白かったです」

今や日本を代表するクリエーティブディレクターの佐藤さん。現代アートにはとてつもない衝撃と影響を受けたとか。

「僕は高校2年の時に美大に入ってグラフィックデザインの道に進もうと決めて予備校で学んでいたんですね。美術史も含めて。それまでもいろいろな美術館に足を運んでアートを見ていた中で、衝撃的な出合いがありました。忘れもしない17歳の時。マルセル・デュシャンの『泉』という作品に出合ったんです。便器に架空の人物の署名をした作品。当時の僕はこれから勉強して絵を描くぞ、学ぶぞと思っているのに、はるか昔にもう描くことをやめている人がいるということに超衝撃を受けたんです。そしてすごすぎる!と」

コンセプチュアルアートの原型といわれるマルセル・デュシャンの作品との出合いで、初めてコンセプトに触れた佐藤さん。

「ただの彫刻とも立体作品とも全然考え方が違う。これがアートなのかと。僕の仕事の根幹となるコンセプトの構築ということにつながる出合いでした。だから振り返ると、若い時のまっさらな状態で受けた影響は本当に大きく、今につながっていますね」

アートの表層だけでなく、本質に触れると社会の見方、ものごとの捉え方が変わる。

「アートだけでなく音楽でも何でもそうだと思うんですけど、体系立てて学ぼうとすると、時間も脳のキャパも限界がある。だから最初はこれ好きだなとか、かっこいいなとかでいいと思うんです。何か自分の中で引っかかったら調べますよね。そうすると時代背景や作者の思考、それらが社会情勢や自分の興味があることとつながったりするんです。そうなると面白いですよね。今の時代、ネットで調べれば関連する事柄なども出てくるから、どんどん広がっていく。だからアートを小難しく考えずに、まずは興味を持てるものを入り口にするのはどうでしょう」

ピカソやウォーホルの圧倒的な
熱量とイメージ力、やっぱりすごい


「本物は情報量が全然違う。作品の大きさ、マテリアル、筆の強さ、置かれている空間の雰囲気に至るまで大切で重要な情報。イメージする力を養うには、実際に本物を見ることがとても役立つと思います」

  • 日経REVIVE 2022年8月号カバー特集 佐藤可士和さん2
  • 日経REVIVE 2022年8月号カバー特集 佐藤可士和さん3


「地球温暖化や廃棄物問題にもつながるので、ものをつくるということをよく考えていく必要があります。今後、例えば空中やメタバースなど今までとは異なるものづくりの概念が生まれるかもしれませんね」

  • 日経REVIVE 2022年8月号カバー特集 佐藤可士和さん4

  • 「アートの中でもデザインに近い部分もあるロシア・アヴァンギャルド全体がすごく好きです。このマレーヴィチの作品もデザインのような要素や色使いでインパクトが生まれていて目を引きますよね」

イメージできるかが鍵
これからの30年をどう描く?

キャリア30年の節目に国立新美術館で「佐藤可士和展」を開催。

「昨年の個展は僕にとって中間報告の場でした。クリエーターとしての30年をまとめさせてもらったんだけど、また次の30年で可士和展2みたいのができたらいいな、なんて思っています。
僕、ぼんやりとでもいいからイメージすることが大切だと思っていて。というのも、イメージすることが実現への第一歩だから。逆に、イメージしてないことは実現できない。だから仕事もそうですが、これから先のことをイメージすることは大事ですよね。ウォーホルもピカソもイメージの幅とエネルギーが桁違い。本当にすごいパワーだと思います。例えばウォーホルは絵だけ描いててもな〜と考えたのではないでしょうか。何が新しいかをイメージし、ファッション、カルチャー、ビジネスの要素も入ったアートを提示した。これは彼の中でイメージしたからできたことだと思うんです」

佐藤さんが今、イメージしていることは何ですか?

「空中からの視点にとても興味があって。宇宙から見た地球とか。空中をメディアとした表現について考えています。具体的にどんな仕事になるのかはまだ想像できてはいませんが(笑)。そんなことをずっと考えています」

イメージするスケールをどこまで
広げられるかがクリエーターの実力

  • 日経REVIVE 2022年8月号カバー特集 佐藤可士和さん5
  • 日経REVIVE 2022年8月号カバー特集 佐藤可士和さん6

「ダブルエルヴィス・プレスリーをはじめ、ウォーホルを代表とするアメリカン・ポップ・アートはHIPHOPの音楽にも多大な影響を与えていますよね」

  • 日経REVIVE 2022年8月号カバー特集 佐藤可士和さん7
  • 日経REVIVE 2022年8月号カバー特集 佐藤可士和さん8日経REVIVE 2022年8月号カバー特集 佐藤可士和さん9

「僕もつくり手なので、これどうやってつくってるんだろう?ということも考えながら見て回ります。(写真右下)このエルンスト・バルラハの木の彫刻、いい表情していますね。かっこよくて好きですね」

What's GOOD LIFE for you?
つくり続けること

  • 「やっぱりクリエーターなんで、ずっとつくり続けていたいです。コンセプトがピタッとはまった時は先がクリアに見えて本当に気持ちが良い。考えている時は苦しいこともあるけど、なんだかんだ一番楽しいです」
  • 日経REVIVE 2022年8月号カバー特集 佐藤可士和さん10

この記事は、2022年7月31日発行の日経REVIVE8月号に掲載された内容です。

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