走りにもスタイルにも 個性が光る
|冬こそオープンカー|
カバー特集
posted by 日経REVIVE
横山 剣さんの「オープンカー」GOOD LIFE
冬こそオープンカー
posted by 日経REVIVE
2023年1月29日
頭を空っぽにしてニュートラルに
大人を魅了するオープンカー
現在6台の車を所有する横山剣さん。
筋金入りの車好きで知られる横山さんですが、中でも愛してやまないのがオープンカー。
愛車のオースチンヒーレースプライトMk1で七里ケ浜までドライブに出かけ、オープンカーの魅力を聞きました。
NAVIGATOR
横山 剣
よこやま・けん1960年、横浜市生まれの歌手、作曲家、プ ロデューサー。クレイジーケンバンドのボーカルを務めながら音楽事務所ダブルジョイレコーズの代表取締役の顔も。無類の車、バイク好きで知られ、クラシックカーやバイクのレースにも参加。
撮影/長野陽一 編集・文/澤村 恵 アートディレクション/本多康規(Cumu) 撮影協力/鎌倉プリンスホテル
ひんやりした空気と対照的に日差しはポカポカ暖かな12月のある日。湘南、七里ケ浜に愛車のクラシックオープンカーで現れた横山さん。車に目覚めたのは遡ること56年前。6歳のときだったとか。
「自分自身で車好きだという決定打になったのがグラン・プリというF1映画を見たことでした。当時レーサーといったらもう花形の時代でしたから。なんてカッコいいんだと夢中になりました。家族が皆レースが大好きだったので、サッカーのワールドカップを見る感覚でテレビでレースを観戦していました。当時活躍されていた福澤幸雄さんや、ミュージシャンでレーサーの三保敬太郎さんに強い憧れを抱き応援していました」
待ちに待った18歳の誕生日を迎えた横山さんは免許を取得。初めて買った車は米国のオールズモビル カトラス。
「デカくてカッコいいと買ったんですけど、1年たったときに税金額を見てひっくり返りました(笑)。排気量が7500ccあったので、これはいかんと税金のことも見据えて乗り換え。ハコスカ(3代目スカイライン)、フォルクスワーゲンタイプⅢ、BMW2002などスタイリングや車雑誌の評論を読んで良さそうだなと思った車にちょこちょこ乗り換えていました。今までで40台ぐらいでしょうか」
そんな〝車の沼〞にハマった横山さんがクラシックオープンカーに出合ったのは2011年のこと。
「堺正章さんとデュエットしたご縁で、クラシックカーに興味があるんですよねとお話しさせてもらったら、後日ラフェスタ ミッレミリアの申込書をいただいて。僕クラシックカー持ってないんです、とお話ししたらじゃあ、買おうって。ご縁もあって黒のオースチンヒーレー100-4(56年式)を
購入できたんです。自分より年上の車なんてもちろん初めてで未知の領域。屋根もない、ラジオもなく、走るだけ。これがとても良かった。エンジンの音、風の音、潮の香りが肌でバンバンに感じられて。英国のライトウエイトにハマり、きょう連れてきたオースチンヒーレースプライトMk1も迎えたんです。カニ目がかわいいでしょう?」
車と作曲だけはずっと好き。
そんな“今”がこの先もずっと続けばいい
- 僕のは古い車なんでね。日によってコンディションがまるで違う。エンジンがかからないことがあり、あまりスピードは出せないし不都合だらけ。だけどそれがかわいいって思える魅力なんですよね。
- 運転中は何も考えずに頭を空っぽにしています。空っぽだからこそ情報がいっぱい入ってくるんですよ。オープンだから聴覚、嗅覚、視覚、すべてが研ぎ澄まされる。充電じゃなくて放電している感じ。
車も音楽も人生も…
今この瞬間をかみしめたい
オープンカーのどんなところに魅力を感じますか?
「僕、車と同じくらいバイクも好きなんですけど、オープンカーってバイクに近い感覚。クローズドタイプは個室が移動している感じで安全だし安心感があるのに対して、オープンカーは五感の解放感がすごい。畑のそばを走ればまきを燃やす匂いがしたり、湘南では潮の香りがして波の音も聞こえて風が頬をなでる感覚も。すーっと自分自身を解放してニュートラルになっていくのがとても気持ちいいんです」
ただ、クラシックカーだとメンテナンスなど手がかかるイメージですが。
「確かに手はものすごくかかります(笑)。でもその不都合さを楽しいとか、いとおしいと思っている自分もいる。エンジンがオーバーヒートしたり、いつ故障したりするかも分からない。ガソリンを入れるのも一手間かかりますしね。ボタンを押せば必ずエンジンがかかるわけでもない、その気まぐれ具合もひっくるめてかわいい。実際不具合が起きているときは勘弁してくれよーって思いますが(笑)。いうなればペットのような感じ。へそを曲げないようにたまにお散歩してあげなきゃいけないんです。調子を確認しながら」
いつどうなるか分からない。ご機嫌次第の不都合ながらいとおしいクラシックオープンカーは横山さんの生き方にも通じる。
「今の連鎖が未来になっていると思うんです。だからあれこれ考えるんじゃなくて、きょううまくいった!を毎日積み重ねていけたらと思います」
SPEC of MY CAR
「1958年から71年まで製造、販売されていたオースチンヒーレースプライトはBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)のエントリースポーツカーといわれています。僕のは59年式。日本で通称カニ目と呼ばれるフロントのフェースが特徴ですが、この時代の車の何がいいって量産型なんだけど、細部をチェックすると微妙に個体差がある。
シンプルで軽量で、でも愛嬌(あいきょう)と味がある。たまりません」
bills七里ケ浜
横山さんもドライブ後の寄り道で訪れることもあるというオールデイダイニング。
©Petrina Tinslay
What's GOOD LIFE for you?
きょうも無事だったを続けていきたい
- 過去を悔やんだり、未来を不安がるのではなく、人生は“今この瞬間”なんですよね。その瞬間の連鎖が未来になるので。だから「きょうも無事だった」が続いていく人生でありたいと思います。
この記事は、2023年1月29日発行の日経REVIVE2月号に掲載された内容です。
取材裏話
2月号「冬こそオープンカー」横山 剣さん
子どもの時から車好き、作曲好きのエピソードとして、中学3年生の時に車メーカーに自分で作ったCMソングを売り込みに行ったことがあるとのこと。メーカーからはそもそも中学生では運転免許がないので、とやんわりお断りされてしまったとか。「クラシックカーこそ人生の先輩が似合う」との剣さんの言葉、わかる気がします。免許返納前のあがりの車をどうするか、考えている方、オープンカーはいかがですか?