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開館50周年記念

【企画展】ウジェーヌ・ブーダン展 - 瞬間の美学、光の探求

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2026年02月20日

ウジェーヌ・ブーダン《ヴェネツィア、サン・ジョルジョ・マッジョーレ》
1895年頃 油彩/板 20.5×39.6cm ランス美術館(inv. 907.19.38) C. DEVLEESCHAUWER©

“印象派の先駆者”ウジェーヌ・ブーダンの回顧展

2026年4月11日(土)からSOMPO美術館で開催されます。

「印象派の先駆者」と呼ばれる画家ウジェーヌ・ブーダン(1824-1898)の日本では約30年ぶりとなる展覧会です。

空や雲、海景、牛の群れなどを瑞々しい色彩と軽快な筆致で描き出したその作品は、故郷であるフランス北部のノルマンディーをはじめとする各地の光と大気の様子を見事にとらえています。戸外制作を重視し、移ろいゆく自然現象の「瞬間」に向き合うその態度は、若きクロード・モネ(1840-1926)を開眼させ、やがて印象派の誕生へとつながっていきました。

海の情景を描いた「海景画」と共に語られることの多いブーダンですが、その魅力はそれだけにとどまりません。油彩・素描・パステル・版画を中心に約100点で構成する本展では、人物や建築モティーフなどにも焦点を当てつつ、フランス近代風景画の発展に大きく寄与したブーダンの魅力を、新たな視点で問い直します。

展覧会のみどころ

1.“印象派の先駆者”ウジェーヌ・ブーダンの約30年ぶりの回顧展
クロード・モネの師として知られるブーダン。印象派の展覧会ではいつも目にする“印象派の先駆者”が、約30年ぶりに主役となる展覧会です。
2.フランスから油彩・素描・パステル・版画、約100点が来日!
初期から晩年にいたるブーダンの画業全体を、約100点を通じてご紹介するとともに、素描やオイルスケッチによって、自然が垣間見せる「瞬間」を追い続けたブーダンの制作プロセスにも迫ります。
3.8つの切り口でブーダンを再考
ブーダンと言えば、ノルマンディーの海辺を描いた「海景画」がよく知られていますが、それだけではありません。8つの切り口―「海景」「空」「風景」「建築」「動物」「人物」「素描」「版画」―を通じ、ブーダンの魅力を多角的に再考します。
4.印象派誕生から150年 ブーダンの功績と革新性を再発見
印象派誕生から150年、またブーダン生誕200年を迎えたことは、19世紀後半のフランス風景画の革新性を再検証するまたとない機会です。印象派に先駆けていち早く戸外制作による自然の臨場感をとらえようとしたブーダンの革新性を、今あらためて考えます。
ウジェーヌ・ブーダン : Eugène Boudin

ノルマンディー地方の港町オンフルールに船乗りの子として生まれ、11歳のとき一家は対岸のル・アーヴルに移住。同地で共同経営していた画材店の顧客であったバルビゾン派の画家たちと交流するなかで、画家を志す。パリでの3年間の修行時代には、ルーヴル美術館での模写を通じて17世紀オランダの風景画や動物画に学び、以降はノルマンディー各地を制作拠点として風景画や海景画を中心に描くようになる。
1850年代半ばに出会った青年期のクロード・モネと共に戸外制作を行ったことは、のちの印象派誕生へとつながった。画業後半期は活動範囲をブルターニュ、ボルドー、ベルク、オランダなどに広げ、晩年にはヴェネツィアへも足を延ばした。表情豊かな空模様を画面に大きく取り込み、光の絶妙な変化をとらえたブーダンの作風は、カミーユ・コローやシャルル・ボードレールをして「空の王者」と言わしめた。サロン(官展)に出品された作品はたびたび国家に買い上げられ、1892年、68歳でレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受勲、1898年にドーヴィルで没する。

画像出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Boudin-eugenec-face-half.jpg

展示構成

I 海景 Marines

ノルマンディーの港町に生まれ育ったブーダンにとって、海辺の風景は身近な存在であった。ロイスダールをはじめとする17世紀オランダの巨匠たちに学びながら海を主題にした絵を描き始めるも、画業初期は必ずしも「海景画」が主軸とはならず、1860年代後半まで待たねばならない。きっかけはヨハン・バルトルト・ヨンキント(1819–1891)の作品の流行であった。このオランダ人画家の描く海景画が画商やコレクターたちの投機の対象となると、ブーダンは半ばその「代役」としての役目を果たすように、「海景画」の注文制作に応えた。ここに、「海景画家ブーダン」が誕生する。注文作品のヴァリエーションを増やすため、ブーダンは、アントワープ、ボルドー、ロッテルダムなど様々な場所へと向かい、なかでもトルーヴィル、ディエップ、フェカン、カマレなど中規模の港を好んだという。

ウジェーヌ・ブーダン 《ドーヴィル》
1888年 油彩/カンヴァス 50×75.3cm ランス美術館 (inv.907.19.32) C. LE GOFF©

ウジェーヌ・ブーダン 《ベルク、出航》
1890年 油彩/カンヴァス 79×110.2cm ランス美術館 (inv.907.19.34) C. DEVLEESCHAUWER©
II 空 Ciels

1859年の初めにブーダンが故郷オンフルールで出会った詩人シャルル・ボードレールは、ブーダンが無数に残した空の習作に注目した最初の人物である。同年のサロンの際、ボードレールは、「この習作は、波や雲の、最も不安定で最もとらえがたい力や光を、極めて迅速かつ正確に描き留めている」と評し、同様にカミーユ・コローやギュスターヴ・クールベら同時代の画家たちも、ブーダンを「空の王者」と称賛した。本セクションで紹介する、油彩やパステルによる小型の習作からは、雲の動きや絶妙な光の変化をよく観察し、変わりやすい北部の空模様の一瞬の姿をとらえようとするブーダンの鋭敏な観察眼がうかがえる。またブーダンは17世紀オランダ風景画に見られる構図を継承し、画面の4分の3が空を占めるという構図で、サロンに出品するための大型作品を完成させた。

ウジェーヌ・ブーダン 《空の習作》
1880年頃 油彩/板 27×21.5 cm 個人蔵、ノルマンディー

ウジェーヌ・ブーダン《ル・クロワジック》
1897年 油彩/カンヴァス 50.5×74.5 cm アンドレ・マルロー近代美術館、ル・アーヴル
Le Havre, Musée d’art moderne André Malraux © MuMa Le Havre / Florian Kleinefenn

ウジェーヌ・ブーダン《干潮》
1884年 油彩/カンヴァス 117×161 cm サン=ロー美術館
© Musée d’art et d’histoire de Saint-Lô, Pierre-Yves Le Meur
III 風景 Paysages

19世紀を通じて、伝統的に絵画ジャンルの上位に属していた宗教画や歴史画がその権威を次第に失墜させていった一方、自然観察に基づいた風景画は、コローやバルビゾン派の画家たちの活躍により、時代の思潮とも合致することで、いわば当時の絵画界の主流へと躍り出る。ル・アーヴルで画材店を経営していたブーダンは、この地を訪れるナルシス・ディアズ・ド・ラ・ペーニャやシャルル=フランソワ・ドービニーらと出会い、彼らから風景画を学んでいった。農民や荷車が行き交う田舎の道を構図の要として用い、あるいは、蛇行する川や小さな港といった水辺の景色を対岸の建物や橋とともに描く構図は、そうしたバルビゾン派からの学びの成果である。

ウジェーヌ・ブーダン《トルーヴィル街道、ビュタン近郊》
1860–63年 油彩/カンヴァス 57×83 cm ウジェーヌ・ブーダン美術館、オンフルール
Honfleur, musée Eugène-Boudin /Illustria

ウジェーヌ・ブーダン《トゥークの古い港》
1890年 油彩/板 52×68 cm ブーローニュ=シュル=メール市立美術館
© coll. Musée Boulogne-sur-Mer Ville de Boulogne-sur-Mer
IV 建築 Architectures

ブーダンは、雲といういわば「移ろう建築物」や船を得意とする画家として名を馳せたが、石造あるいは木造の建造物も生涯にわたり描き続けている。妻との結婚を機に滞在を重ねたブルターニュでは教会の門や十字架を、また、旅先のオランダやヴェネツィアでは、その土地に特徴的な建築を描いた。しかし画家自身、「『風景の乱れ』に甘やかされた老人にとって、ヴェネツィアを描くことは難しい」と告白する。建築という堅固な対象を描くことへの困難を自覚しつつも、ブーダンは晩年まで移ろう自然のなかに佇む建築物を描き続けた。

ウジェーヌ・ブーダン《廃墟のラッセイ城》
1893年 油彩/カンヴァス 50.5×74 cm ブーローニュ=シュル=メール市立美術館
© coll. Musée Boulogne-sur-Mer Ville de Boulogne-sur-Mer

ウジェーヌ・ブーダン《ヴェネツィア、税関とサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂》
1895年 油彩/板 19.7×39.6 cm ランス美術館(inv. 907.19.39) C. DEVLEESCHAUWER©

ウジェーヌ・ブーダン《ヴェネツィア、サン・ジョルジョ・マッジョーレ》
1895年頃 油彩/板 20.5×39.6 cm ランス美術館(inv. 907.19.38) C. DEVLEESCHAUWER©
V 動物 Amimaux

温暖で湿潤な気候のノルマンディー地方は、牛の飼育に適した豊かな牧草地が広がる地域である。近代化や工業化の波を経て人々の関心がますます田舎の生活へと向かう時代、1880年代になると、かつてブーダンが教えを受けたトロワイヨンによる動物画の評価は急上昇し、ブーダンも、画商デュラン=リュエルの要請を受けて、「トロワイヨン風の作品を、自分のやり方で」描き始めた。約10年にわたって、ブーダンは牧草地の牛の群れを数多く制作したが、その表現はかつての師とは異なって、次第に動物たちは単なる色の斑点に還元されてゆき、抽象表現に近い境地に達している。

ウジェーヌ・ブーダン《水飲み場の牛の群れ》
1880年 油彩/カンヴァス 79.3×109.6 cm ランス美術館(inv. 907.19.33) C. DEVLEESCHAUWER©
VI 人物 Figures

ブーダンはその初期に、おそらくジャン=フランソワ・ミレーの影響を受けて、主に家族をモデルとして肖像画を制作していた。しかし、その表現はブルジョワの趣味に合致せず、またダゲレオタイプの発明を機とする肖像写真の流行もあいまって、ブーダンは早々に肖像画というジャンルから遠のいた。むしろ画家が関心を持ったのは「自然の中の人物像」であり、その源流は、奨学生時代に制作したアントワーヌ・ヴァトー作《シテール島の巡礼》の模写に求められるだろう。その後もブーダンは、夏の海水浴客や浜辺の漁師、川辺で洗濯をする女性などを繰り返し描いている。

ウジェーヌ・ブーダン《ドゥアルヌネ湾(フィニステール)のサンタンヌ=ラ=パリュのパルドン祭》
1858年 油彩/カンヴァス 87×146.5 cm アンドレ・マルロー近代美術館、ル・アーヴル
Le Havre, Musée d’art moderne André Malraux © MuMa Le Havre / Florian Kleinefenn

ウジェーヌ・ブーダン《傘をさす女性、ベルクの海岸》
1873年頃 油彩/板 12.5×17.5 cm ウジェーヌ・ブーダン美術館、オンフルール
Honfleur, musée Eugène-Boudin /Henri Brauner
素描 Dessins

ブーダンにとって素描は、対象の表面だけでなく本質を理解するための手段であり、また制作の着想源を養う活力でもあった。描き溜めた素描を参照しながら、その場所が持つ空気感や人物のポーズ、あるいは、ある瞬間の雰囲気を再確認し、準備下絵に色彩、色調、形態に関する客観的な情報を加えていったのである。印象派世代の画家たちは、時に緻密で時に即興的なブーダンの素描を重視し、自分たちの先駆者として認識した。わずか数本の素早い線で本質が示される、その喚起力に魅了されたのである。事実ブーダンは、こうした言葉を残している―「素描をしなさい、素描を。絵画で重要なのはそれだけだ」。

ウジェーヌ・ブーダン《トルーヴィルの海岸の貴婦人(トルーヴィルの海岸のメッテルニヒ夫人)》
1863年 水彩・鉛筆/紙 17×24.3 cm 個人蔵、ノルマンディー
版画 Estampes

19世紀後半の版画芸術が花開いた時期にあって、ブーダンは自ら版画を制作することはほとんどなく、2点のリトグラフと1点のエッチングが知られているのみである。オリジナル版画を制作しなかったにもかかわらず、ブーダンは、版画制作のためのモデルとなる素描はしばしば提供していた。ここでは、それらを基に制作されたリトグラフやエッチングを紹介する。

読者プレゼントのご案内

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展覧会チケットプレゼントへのご応募は『3月中旬』開始予定

開館50周年記念
ウジェーヌ・ブーダン展
– 瞬間の美学、光の探求

<開催概要>

会期:2026年4月11日(土)— 6月21日(日)
会場:SOMPO美術館 〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1
開館時間:10:00–18:00(金曜日は20:00まで) ※最終入場は閉館30分前まで
休館日:月曜日(ただし5月4日は開館)、5月7日
主催:SOMPO美術館、朝日新聞社、テレビ朝日
特別協賛: SOMPOホールディングス
特別協力:損保ジャパン
協力:日本航空
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ、新宿区
監修:ローラン・マヌーヴル
企画協力:ブレーントラスト
URL:https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2025/eugeneboudin/
問い合わせ先:050-5541-8600(ハローダイヤル)