コラム
ART
posted by 日経REVIVE
GO FOR KOGEI 2023 レポート
船で辿る北陸の工芸、現代アート、アール・ブリュット
posted by 日経REVIVE
2023年10月23日
GO FOR KOGEI 2023特集の第3弾をお届けします。
第1弾「アートと工芸でつながる北陸 伝統工芸が集まる地域 北陸の楽しみ方」
第2弾「アートと工芸でつながる北陸 北陸を知り、今をいきる作家たちと出会う」
GO FOR KOGEI 2023 開催概要はこちらをご覧ください。
- 第3弾は、北陸・富山で開催されている「GO FOR KOGEI 2023」をレポート。
「GO FOR KOGEI 2023」では、工芸、現代アート、アール・ブリュットを跨ぐアーティスト26名が参加し、富岩運河沿いの3つのエリアに作品が展示されています。レポートでは、エリアごとのアーティスト作品を詳しくご紹介します。
- K-1 樂翠亭美術館:川井雄仁、⾦理有、近藤⾼弘、桑田卓郎、辻村塊、野村由⾹
K-2 富岩運河環水公園:久保寛子
K-3 富⼭県美術館:オードリー・ガンビエ
環水公園エリアは富山市の中心部に位置し、遠くそびえる立山連峰と富岩運河の水辺が織りなす豊かな風景を臨むことが出来ます。富岩運河は遊覧船で周遊することができ、中島閘門エリア、岩瀬エリアへ向けて運河を辿る展覧会のスタート地点になります。
K-2 富岩運河環水公園(富山市湊入船町1)
アーティスト:久保寛子
作品名:やまいぬ
環水公園内にある世界一美しいとも言われているスターバックスの前に、オスメスつがいの【やまいぬ】をモチーフにプラスチックメッシュで制作された作品です。数日前の展示準備中に大雨がふり、作業で使っていたボートが水没してしまったというエピソードも。
K-3 富⼭県美術館(富山市木場町3-20)
アーティスト:オードリー・ガンビエ
作品名:Soft Vase
オードリー・ガンビエさんは後述の桑田卓郎さんの陶器作品に影響を受け、鮮やかな色彩と独特の質感の作品を制作しています。【Soft Vase】は人が被って移動することが出来る柔らかくて軽い作品で、訪問者が気軽に体験できるのですが、総合監修・プロデューサーである秋元雄二さんが、訪問された方に作品の説明をしているところでした。
K-1 樂翠亭美術館(富山市奥田新町2-27)
富山駅から徒歩約10分の場所にある樂翠亭美術館は、1950年代に建てられた日本建築をリニューアルし、美術館として企画展やコレクション展を行っています。
樂翠亭美術館の入り口の階段から1階のフロア全面に敷き詰められた作品の数々。奈良にある辻村塊さんの工房をそのまま持ってきたようなインスタレーションとなっています。
アーティスト:辻村塊
作品名:信楽壺
靴を脱ぎ、樂翠亭美術館の中に入っていくと、「坐像」に遭遇。ただただその存在感に圧倒される「坐像」ですが、作者の近藤高広さんは2011年に起きた東日本大震災から受けた衝撃から、今一度我に立ち返り、自分自身をかたどった作品を制作しているそう。人体と器との共通項を感じ、坐像の作品でも、白磁の作品でも、現実や自身と向き合う姿勢がしっかりと盛り込まれています。
アーティスト:近藤高弘
作品名:(写真右)Reduction リダクション 2014(前)、白磁大坪(後)、Reduction リダクション 2014(屋外)
さらに奥に進むと、無数の陶器がびっしりと並べられています。よく観てみると中には制作の過程で生まれた破片のようなものも含まれています。この3000個にもおよぶ作品の数々は桑田卓郎さん自身が展示されたそうです。彼にとって、失敗作という概念はないそうで、作品全てに対する思いが伝わってきます。
裏庭では一人の女性が作業をしていました。アーティストの野村由香さんです。富山県の土木工事の残土をもらい受け、樂翠亭美術館の裏庭で制作と展示を同時に行っています。自分自身でつくったという装置を用いて、地道に土を押し出していく作業を継続し、作品が出来上がっていきます。
アーティスト:野村由香
作品名:Repetitive Activity in Toyama City
奥の蔵に足を伸ばすと、光り輝く「一つ目」のオブジェが出現します。陶器であるこの作品は中が空洞になっており、「一つ目」から中を覗くと真っ暗闇になっていて、人間の内面を表現しているとか。裏庭の階段を上がると青色の作品も優しく佇んでいます。
アーティスト:金理有
作品名:(左)煌金彩虚視線刻入道、(右)青紫彩線刻閃冠梟入道
裏庭から戻って、樂翠亭美術館の2階に行くと、またまた別の世界に遭遇します。フロア全体がストーリー仕立ての演出になっており、訪れる方を和やかな気持ちにしてくれるでしょう。懐中電灯を持って観る作品にはどこか懐かしさも感じられるのでは?
アーティスト:川井雄仁
作品名:(左)表参道、(右)SWEET 39 BLUES
- N-1 電タク:板垣豊⼭、川上建次、河部樹誠、増⽥セバスチャン、横野明⽇⾹、長恵、定村揺⼦
N-2 中島閘⾨ 操作室+広場:上⽥バロン、渡邊義紘
閘門とは水位の異なる水面をもつ河川や運河、水路に設けられる船を通航させるための施設で、いわば水上エレベータです。その中島閘門の真横に大きな作品が見えてきます。
N-2 中島閘⾨ 操作室+広場(富山市中島2-3-2)
アーティスト:上田バロン
作品名:夢幻の星屑(2023)
上田バロンさんはアナログよりもデジタル絵画に魅了され、独特なキャラクターを生み出しています。本作品【夢幻の星屑】は右から左に物語が構成され、富山の深海の神秘的なイメージを表現しているそうです。遊覧船から低い視線で観ると光の加減で作品が変化する様子も観てほしいと伝えていました。
中島閘門のほとりにある操作室には、渡邊義紘さんの作品が展示されています。幼い頃から昆虫や動物に興味を持ち、クヌギの葉を用いて、さまざまな生き物を独自の技法で一つ一つ手で制作しているそうです。
N-1 電タク(富山市中島1-14-46)
元タクシー会社の配車場として使用されていた「電タク」にて、その社屋、駐車場、およびプレハブ内に9名のアーティストの作品が展示されています。
アーティスト:増田セバスチャン
作品名:Polychromatic Skin – Gender Tower – #北陸
6mもあるひときわ大きな作品が駐車場にそびえ立っています。増田セバスチャンさんはこの Polychromatic Skin シリーズの作品を東京や大阪、海外でも披露しており、今回の作品【Gender Tower – #北陸】は本展覧会向けに新たに制作し、作品を囲む木と水は富山をイメージしています。作品を Skin で覆い、その中身にさまざまな玩具を取り入れることで、多様性やジェンダー平等などのメッセージが込めているそうです。
「電タク」社屋には3名のアーティストの作品が展示されています。
アーティスト:横野明日香
作品名:2023 のダム
黒部ダムに訪問したことがきっかけでダムをモチーフにした作品を制作し始めたという横野明日香さん。今回の展覧会を期に、再度黒部ダムを訪問し制作に取り掛かったと言います。実際には壮大過ぎて一度の視線では全体と捉えることが出来ないため、見た順にその時々に視線が捉えた風景を描き、その視線をたどるようにキャンバスを埋めることで作品が完成する独特な手法で描いています。パノラマ写真を撮った時に少し歪んだようになるのに近い感覚なのではないでしょうか。
アーティスト:定村瑤子
作品名:(左の写真)並木と車庫(左)、ありがたいおめでたさ(右)
2階に上がると、社長室と隣の部屋に定村瑤子さんの作品が展示されています。彼女は先に描く対象の模型を作り、その模型自体を描くという独特なプロセスを取っています。社長室内は当時のまま残した家具の中にさまざまな作品を混ぜ合わせ、全体の空間を演出しています。
アーティスト:長恵
作品名:天子とハンドベルシリーズ
社屋横にあるプレハブ内には3名のアーティストの作品が展示されています。
アーティスト:川上建次
作品名:(写真右)キカイダー01(未完)
アーティスト:板垣豊山
作品名:(写真右)Sleeping Beauty
アーティスト:河部樹誠
作品名:首かり 200余人
- I-1 桝⽥酒造店 満寿泉:コムロタカヒロ、葉⼭有樹、平⼦雄⼀
I-2 桝⽥酒造店 寿蔵:葉山有樹
I-3 北陸銀行 岩瀬支店:平子雄一
I-4 酒蕎楽くちいわ ⻘蔵:村⼭ 悟郎
I-5 ⾺場家:桜井旭
I-6 KOBO Brewery:ささきなつみ
I-7 酒商 田尻本店:平子雄一
I-8 桝⽥酒造店 沙⽯:O33、古川流雄
富岩運河の終着地であり、美しい街並みが残る岩瀬地区には、8箇所に9名のアーティストの作品が展示されています。
I-1 桝⽥酒造店 満寿泉(富山市東岩瀬町269)
富山の日本酒として有名な満寿泉を製造する桝田酒造店の大きな扉を作品にした葉山有樹さん。普段は有田にて陶磁を制作していますが、この作品は磁気の紋様をアルミ板に転写して描いた作品で、高度な技術と壮大なスケールが特徴の作品となっています。桝田酒造店の家紋にも描かれている龍をモチーフにした作品は圧巻です。
アーティスト:葉山有樹
作品名:双龍
桝田酒造店の中に入ると実際に日本酒を貯蔵しているタンクの間にさらに龍が四体出現します。子供の頃から親しんできたアニメや玩具から影響を受け、ソフビのような木彫作品を制作しています。富山の酒蔵という場所と水というテーマを考慮し、さらに銅像や仏像といった神聖なるものをかけあわせ、龍をモチーフにした作品に創り上げました。
アーティスト:コムロタカヒロ
作品名:Dog dragon/Bat dragon/Savage dragon/Demonic dragon
桝田酒造店の2階に上がると、酒蔵とは思えない幻想的な空間に入り込みます。黒で統一された布や綿棒、タオルの糸を用いて独特の世界観が演出された、優しく、繊細でありながら、非常に力強い作品を観ることができます。
アーティスト:岩崎貴広
作品名:Out of Disorder(Layer and Folding)
桝田酒造店の外壁には平子雄一さんのカラフルな絵画作品が展示されています。岩瀬地区の昔ながらの景観に作品が溶け込み、和やかな雰囲気を醸し出しています。屋根の上にも作品がありますので、お見逃しなく。
アーティスト:平子雄一
作品名:Lost in Thought / Toyama
I-2 桝⽥酒造店 寿蔵(富山市東岩瀬町123-2)
I-1で紹介した桝田酒造店の扉の作品を制作した葉山有樹さんの陶器の作品。落ち着いた佇まいの中で神々しさを感じさせるこの作品は、古酒を貯蔵している倉庫の奥に展示されています。
アーティスト:葉山有樹
作品名:龍孫皇帝図鉢
岩瀬地区の街並み
I-4 酒蕎楽くちいわ ⻘蔵:村⼭ 悟郎(富山市東岩瀬町135番地 裏)
岩瀬地区の街並みを進み、少々奥まった蔵の中に村山悟郎さんの作品が展示されています。自己組織化の理論を応用し、コンピューターを使った貝殻模様をシミュレートする高度な技術等も駆使し幅広く作品を制作しています。
アーティスト:村山悟郎
作品名:(左)自己組織化する絵画<過剰に>、(右)頑健な情報帯[黄・紫]
北陸銀行 岩瀬支店(富山市東岩瀬町110)
北陸銀行岩瀬支店の入口では、かわいらしい二体の彫刻が出迎えてくれます。平子雄一さんはこのように頭部が木になっている作品を数多く制作されているそうです。
アーティスト:平子雄一
作品名:Wooden Wood 39
I-5 ⾺場家(富山市東岩瀬町107-2)
登録有形文化財でもある馬場家を描くプロジェクトを進めているのが桜井旭さんです。裏庭では実際にライブペインティングのパフォーマンスを披露中で、多くの取材を受けられていました。
アーティスト:桜井旭
作品名:馬場家を描くプロジェクト
I-6 KOBO Brewery(富山市東岩瀬町107-2)
馬場家の米蔵を改装しブリュワリーにした KOBO Brewery の壁に堂々と異彩を放っているのは、ささきなつみさんの3つの作品。動物や植物、人が融合した未知の生物「リンジン」を創造し、その「リンジン」が制作した標本としてこれらの作品に落とし込んでいるそうです。
アーティスト:ささきなつみ
作品名:(写真左)右からリンジンの標本II「天(てん)」、リンジンの標本III「開(かい)」、リンジンの標本I「土(ど)」
I-7 酒商 田尻本店(富山市東岩瀬町102)
酒商 田尻本店の入口の横にひっそりと佇んでいるのは平子雄一さんの彫刻作品。こちらも頭部が木になっている作品の一つですが、ちょっと気づきにくのでお見逃しなく。
アーティスト:平子雄一
作品名:Wooden Wood 14
I-8 桝⽥酒造店 沙⽯(富山市岩瀬大町93)
桝⽥酒造店 沙⽯に入るとまずは存在感のある作品に吸い込まれます。1980年代に制作された作品(写真右)に対して、より一層、色彩と形態に深みが加わり、さらにフォーマリズムを超越した作品に仕上がっているようです。
アーティスト:古川流雄
作品名:(左)正午の灼熱、(右)受肉
この美しい作品の雰囲気からは想像もつきませんが、実はこの作品は羊の腸が素材に使用されています。アーティストのO33さんはモンゴル出身で、羊は身近な存在だそうです。無数の羊の腸のインスタレーションに光を照らし、その美しさを表現するとともに、対局するものの間を繋ぐ空間を演出しています。
アーティスト:O33
作品名:Inner
物質的想像力と物語の縁起―マテリアル、データ、ファンタジー
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<開催概要>
会期:2023年9月15日(金)–10月29日(日)
時間:10:00-16:30(入場16:00まで)
休場日:樂翠亭美術館(水曜)、富山県美術館(水曜、9月19日)、KOBO Brew Pub(火曜)、ほか会期中無休
会場:富山県富山市 富岩運河沿い(環水公園エリア、中島閘門エリア、岩瀬エリア)
URL:https://goforkogei.com